約 1,319,902 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/456.html
「朝ですぞー。起きてくれませんかのぉ」 「うにゃ……あと五分……あと五分~~~」 「三回目ですぞその言葉は……」 キングクリムゾン。 「どうしてもっと早く起こさないのよ! このバカ犬! 役立たず! ボケ老人!!」 「何回も起こしとったんですが……」 朝食の時間に間に合わないかもしれない時間に起きたにも拘わらず、ルイズはジョセフに自分の着替えをさせていた。 その間もきゃんきゃん怒鳴るものだから、ジョセフの耳はキンキンしっぱなしだった。 寝巻きを脱がせ、下着を着けさせ、制服を着せていく。 当然ルイズの生まれたままの姿を朝日の下で目撃することになる。 ジョセフの感想は「肌はすべすべじゃが、上から下まで子供そのものじゃのう。これは遺伝か?」だった。 しかし貧乳だとか幼児体型だとかいう単語を口にするのは危険だと、ジョセフの第六感は強く語りかけていた。 シエスタからは「使い魔と召使は別物」「雑用まで言いつけてるのはミス・ヴァリエールくらいのものではないか」「学院の生徒だから普通は自分でやるもの」「他の貴族の方々はもうちょっと使い魔を大切にしている」という話を、世間話ついでに聞いていた。 公爵家の生まれというのもあるだろうが、せっかく呼び出した使い魔は役に立たない(フリをしている)から、その鬱憤晴らしに当り散らしているのもあると見ていた。 しかしジョセフはそんな扱いに憤りを感じるどころか、「たまにはこんなのも悪くはないのう。いやはや役得役得」と男の幸せを噛み締めていた。 女性に服を着せる、というのも脱がせるのとはまた違った趣がある、ということをよく知っている彼だった。 「ああもう! 早く着替えさせなさいよ、朝食に間に合わないじゃない!」 と、ルイズが怒鳴りつけた直後。ノックと同時に部屋の扉が開かれた。 「ちょっとルイズ! もうそろそろ朝食だってのにいつまで寝て……」 部屋に入ってきた褐色肌の女は、部屋の中の光景を見て大きく目を見開き、ぽかんと口を開けた。 その時ジョセフは、ルイズのブラウスのボタンを留めようとしている所だった。 褐色肌の女視点でより詳細に描写すると、こんなことになっていた。 ピンク髪の幼児体型少女の前で背を屈めている、見覚えのないガタイの宜しい老人が、彼女のブラウスに、手を、かけていた。 二組の視線を集める彼女は、えほん、と咳払いをしてそそくさと後ろ向きに部屋を出ようとする。 「ご、ごめん。お楽しみのところだったのに邪魔しちゃって。あたしから上手に言っておくから続けて続けて」 「こら待てキュルケェェェェェ!!! 何勘違いしてんのWRYYYYYYYYY!!!」 褐色肌……キュルケの盛大な勘違いの意味に気付いたルイズが大爆発を起こし、ジョセフの手を振り切ってキュルケへと飛び掛る。 (あーこりゃ朝食には間に合わんかもしれんのう) 波紋で空腹を克服しているジョセフは、ほぼ他人事のような感想を抱いた。 褐色肌で背が高くナイスバディな彼女……キュルケと取っ組み合うルイズの姿を見たジョセフは、キュルケはルイズの友人なのだと理解した。 おそらく本人同士は「違う」と断言するだろうが。 そして数分後、やっと落ち着いたルイズの怒鳴り声を浴びながら着替えを終わらせたジョセフは、食堂へとやっと向かうことが出来た。 食堂の床に座って固いパンと薄いスープを食べた後、教室で魔法の授業を聞くジョセフ。 使い魔である彼は当然ながら、巨大モグラやサラマンダーやフクロウと一緒の場所に座らされているわけだが、ここで本日二回目のアメリカニューヨーク仕込の人心掌握術が炸裂していた。 授業の内容もそこそこに後ろを振り返ったルイズが見たものは、使い魔の輪の中心で胡坐をかいて談笑しているジョセフの姿だった。 (使い魔は使い魔同士、気が合うものなのかしらね) しかしルイズは微妙に気に入らなかった。 あんな朗らかな笑顔を自分の前じゃしなかったじゃないか。人の顔色を伺ってヘコヘコ頭を下げていたくせに、自分と同じ立場の使い魔達とはあんなすぐに仲良くなって。 役に立たないくせに友達はすぐに作れるだなんて。 役に立たないくせに…… 「ミス・ヴァリエール! 授業中は前をお向きになって頂きたいのですけれど!」 ルイズの取り止めもない思考は、教師の声で唐突に打ち切られた。 「ではミス・ヴァリエール、前に来てこの石を『錬金』してみせて下さい。どんな鉱石でも構いません」 事情を知らない教師の言いつけに、教室中から恐慌にも似たブーイングが巻き起こる。 怒涛のブーイングの中、ルイズは足音も荒く前へと歩み出て行き……覚悟を決めた生徒達は一斉に机の中へもぐり……使い魔達も物陰に隠れ…… 今日の爆発は、いつにも増して酷かった。 「いやはや、なかなか大したモンでしたぞご主人様。あれだけの破壊力なら十分実用レベルですじゃ」 「うるさいうるさいうるさい!」 ジョセフは心からの賛辞を送っているのだが、今のルイズには嫌味や皮肉にしか聞こえない。 ある意味この事態を巻き起こした張本人とも言える、教師シュヴルーズはルイズの起こした大爆発をまともに食らって再起不能。 一週間近くも自習が決まったことに生徒は喝采を叫んだものの、虫の息になったシュヴルーズは最後の力を振り絞って、ルイズに教室の掃除を命じた。 もはや掃除ではなく撤去作業と称してもいいほどの惨事に、ジョセフは一人で立ち向かっていた。ルイズは辛うじて無事だった机に座って、不機嫌そうに足を組んでいるだけだ。 「それにしても、ワシだけが仕事をするというのはどうにも不公平じゃありませんかのー。 そもそもご主人様が受けた罰なんじゃから、形くらい手伝ってもらいたいんですがの」 「うるさい! ご主人様と使い魔は運命共同体、言わばご主人様の受けた罰は使い魔に与えられた罰なのよ! そんな当たり前のこと言ってるヒマあったら手を動かす!」 イギリスには「お前のものは俺のもの 俺のものも俺のもの」という言葉がある。日本にはこの言葉を決め台詞にする人気キャラクターがいるが、それは偶然の一致らしい。 この分ではきっと、使い魔が貰ったものはご主人様のものだと言い出しかねない。 これまでのルイズの言動を鑑みて、その予想に魂を賭けてもいいとすらジョセフは思った。 「まぁしかしなんですじゃ。ご主人様が『ゼロ』と呼ばれる所以はよく理解できましたがの」 「アンタ喧嘩売ってるワケ?」 「滅相もない。例えばわしなぞ平民ですからの。ええと、こうでしたかな……」 と、教室を吹き飛ばした原因である『錬金』の呪文を、ジョセフが唱えてみせる。一度聞いただけの呪文を正確に間違えず唱えたことにルイズは僅かに感心したのか、眉をぴくりと動かした。 だが当然のことながら、杖も魔力もないジョセフの前には何の変化すらない。 「見ての通り何も起こりませんわい。じゃがご主人様は魔法を唱え、あのような爆発を起こせた。確かに『錬金』には失敗しておるかもしれませんが、『魔法が使えない』わけじゃないということですな」 ルイズは無言で聞いている。眉間には皺が寄っているが、「それで?」と問いかけるようにジョセフをねめつけていた。 「ご主人様の魔法は使い所を間違わなければ、十分に破壊力のある魔法だということですじゃ。わしゃ他のお偉方の魔法がどれほどのものかは知りませんが、わしのいた場所でこれだけの威力を出せたら一級品でしたな」 無論言うまでもなく、ジョセフの人心掌握術その三が炸裂しようとしているところである。だが人心掌握術云々をさておいても、これはジョセフの忌憚ない感想であった。 純粋な破壊力だけで言えば、波紋とハーミットパープルを使えるジョセフよりも確実に上。 「わしはご主人様を『ゼロ』とは決して呼びますまい。それは固く誓えますぞ」 しかしルイズは、ぷい、と顔を横にそらした。 「バッカじゃない? そんなの当たり前よ当たり前! いいからムダ口叩いてるヒマがあったら早く片付けちゃいなさいよ、全く使えないんだから!」 少し早口に言い切ってから、ルイズは心の中で思った。 (……昼ごはんは何か余計にあげてもいいかしら。鳥の皮くらいならあげてもいいわ) 人心掌握術その三は、ちょっとだけ功を奏したようだ。 結局ジョセフ一人が後片付けに従事したため、ルイズ達が昼食を取り始めたのは他の生徒達がメインディッシュを食べ終わり、デザートの配膳が始まろうかとしている頃だった。 「ほら、心して食べるのよ。ご主人様の慈悲深さに心から感謝しなさいよっ」 ジョセフの皿の上に切り分けた肉の脂身を落とすルイズ。 別にいらん、という心の声を億尾にも出さず、「ありがとうございますご主人様ァ~」とボケ老人のフリを絶賛続行中。 スージーにホリィに承太郎、そして部下達にこんな姿は絶対見せられんのォとも考えながらも、我ながら大したボケ老人っぷりじゃのうと自分の演技力に感嘆すらしていた。 (もし元の世界に帰って何か不都合があっても、ここで培った演技でとぼけ通せるんじゃないかのォ~~~。これならイケるんじゃねェ~~~~?) それはそれとして脂身だけでも確かに旨い。アメリカのレストランでこれだけの料理を食べられる店はあまりない。イギリスには存在するはずもない。少なくともここの料理人は一流だ。 スープでふやかした固いパンを咀嚼していると、デザートを配膳しているシエスタと視線があった。ちょっとはにかんだ笑顔でにっこり微笑むシエスタに、ジョセフはニカッと笑って会釈を返す。 (お互い大変ですね)とアイコンタクトを交わした後、ジョセフは食事に、シエスタは配膳の仕事に戻る。 ややあってあとはデザートを待つだけ、なった時、食堂に少女の怒鳴り声が響き、続いて貴族達の笑い声がドッと響いた。 なんだろう、とそちらを向いたジョセフを、ルイズは軽く叱り付けた。 「こらボケ老人! 何かあったからっていやらしくそっち見るんじゃないの!」 しかし当の本人のルイズも、何があったのか興味を隠せないらしい。ルイズはデザートも来ないうちから席を立って騒ぎの輪へと向かっていき、ジョセフも後ろを付いていく。 「全く、本当に気の利かないメイドだな! 知恵があるとは期待してなかったが、ここで働く以上は貴族に話を合わせる機転くらいは持ち合わせていてもらいたいものだ!」 「も……申し訳ありません! 申し訳ありません!」 生徒達の輪の中心は、ワインをたっぷり浴びせられた金髪の少年と、その前に跪いて必死に許しを乞うている……シエスタ。 ルイズは、金髪の少年……ギーシュ・グラモンを見て、「ああ、どうせ二股バレて酷い目にあったんだわ。それでメイドに八つ当たりしてるってところかしら」と心の中で呆れた。 無論、この時は完全にジョセフの事など頭の中から消えうせていた。 だが、もし。ルイズがここでジョセフにちらりとでも視線をやっていたのなら――彼女は、見たことのない“男”の表情を間近で目撃することになっていただろう。 生徒達はニヤニヤと笑みを浮かべながら、事の顛末をただ眺めている。 そしてギーシュの取り巻き達が、この不躾なメイドに如何なる罰を与えるか囃し立てて盛り上がり、シエスタの恐怖が最高潮に達しようかとなった、その時。 一人の男が、生徒達の輪を潜り抜けてきたかと思うと―― ギーシュの顔面に、黒の革手袋が勢い良く叩き付けられたッッッ!!! 「わしの国では、決闘を挑む時は相手に手袋を投げ付ける……トリステインでの決闘の申し入れ方は知らんのでな……」 手袋を投げ付けた張本人は……ジョセフ! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、ジョセフ・ジョースターッッッッ!! To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1651.html
「一体、この責任を! 誰が! どのようにして取るおつもりか!」 激昂した男が目の前の机を叩く。 それをオールド・オスマンは黙って聞き流していた。 責任も何も知った事ではない。 この件を何も知らされていない者達には何の関わりも無い。 数少ない関係者であったオスマンとコルベールは生徒と王女を守るので手一杯だった。 そもそもフーケに気取られた直接の原因は男の軽率な行動にあるのだから、 “責任取って勝手に自刃したらいいんじゃね?”と言いたくもなる。 あの後、ゴーレムで学院の外へと逃走したフーケを追撃したものの、 ある程度の距離が離れた所でゴーレムが崩壊した。 即座に持っていた馬車の回収が行われたが、積荷はフーケと共に消え失せていた。 完全にフーケにしてやられた訳だ。 「渡す直前まで宝物庫で管理していれば、こんな事態は防げた! これは君達の管理不行き届きが原因で起きたのだ! そこを自覚してもらおう!」 本当に頭が痛くなってくる。 ただでさえ厄介な物を押し付けられたと思ったら、この始末。 だが、学院内で起きた盗難事件を他人任せにするのは気が進まない。 それに王宮の衛士隊も動かせないだろう。 今回の件は一部の人間以外には内密に行われていたのだ。 それが発覚するのを避ける為にもフーケに盗まれたのは“適当な金目の物”として処理する必要がある。 “光の杖”の存在を公にする事は出来ない。 そして幸運な事にミス・ロングビルが周囲で聞き込みをし、 “土くれのフーケ”とおぼしき人物の所在を掴んだのだ。 今まで神出鬼没と言われたフーケの足取り。 この機を逃せば二度と捕まえる事は出来ないだろう だが誰が捕まえに行くのか? 他に事情を漏らせぬ以上、行ける人間は限られている。 目の前の男は論外、実力以前の問題だ。 だが学院長である自分がここを離れる訳にはいかない。 更に“土くれのフーケ”が学院の宝物庫を諦めたとは限らない。 自分が離れた隙を突いて再度現れる危険だってある。 ならばと視線を隣へと移す。 そこには男の暴言を耐えて歯噛みするコルベールの姿。 彼ならば“土くれのフーケ”が相手だろうと遅れを取る事は無い。 だが視線が合った瞬間、彼は俯くように視線を外す。 (……やはり、ダメか) となれば、後は他の教師達しかいないのだが…。 先の騒動の際に動けた者など一人もいなかった。 自身の実力を過信するギトーでさえ何も出来なかったのだ。 捕まえる以前に、捜索隊に参加してくれるかどうかさえ危うい。 「どうなのだ! 何とか言いたまえ! これは魔法学院全体の信用にも関わる問題なのだぞ!」 「…責任の所在よりもまずは盗品の奪還とフーケの逮捕、優先されるべきは、その二つだと思うのじゃが」 「そんな事は判っている! では誰がフーケを捕らえるのだ!? 貴公か? それとも、そこの無能か? まさか自分の秘書にやらせるのではあるまい?」 二人の口が噤む。 最大の難点、そこに踏み込まれては何も言えない。 重苦しい空気の中、一人の少女が声を上げた。 「私が行きます!」 三人の視線が彼女に集まる。 小さな胸を胸を張り、ルイズは高々と杖を掲げる。 「何故、生徒がここに!?」 「私が呼びました。数少ないフーケの目撃者ですので」 「むう! いかん、いかんぞミス・ヴァリエール! 君は一生徒に過ぎん。その君に、この様な危険な事をさせる訳には……」 「ですが魔法学院全体の問題というなら生徒である私も関係あるはずです!」 学院長の諫言さえも押し返し、彼女は一歩も譲らない。 誰も行きたくない以上、渡りに船なのだが男は反発する。 どこの馬の骨か判らない生徒に、自身の今後を左右する問題を任せたくはない。 それが本心だった。 「バカな! 生徒一人に何が出来る!?」 「あら。一人じゃありませんわ」 見れば、その横にいた赤毛の少女も同様に杖を掲げている。 それに男が唖然としていると続けて青い髪の少女も杖を掲げる。 「ミス・ツェルプストー、それにミス・タバサまで…」 「ヴァリエールに負ける訳にはいきませんので」 「……二人が心配」 呆れたようなコルベールの声。 だが、その声も弱弱しい。 確かに無謀かもしれない。 それでも仲間を案じ、危険な任務に挑む彼女たちを見ていると、 何故か止めようとする決意が鈍ってしまう。 「わん!」 「相棒も行くってよ……事情はよく判ってねぇみたいだけどな」 「ふむ…では彼女達に託そう」 「正気ですか! この重大事を生徒などに…」 「いや、そう悲観したものではない、この三人の生徒は中々優秀でな。 まずミス・タバサは若くして“シュバリエ”の称号を持つ騎士と聞いている」 その言葉に全員の視線がタバサに集中する。 仲の良かったキュルケでさえ、本当なの?と本人に確認している。 それに彼女はいつもどおりの無表情で頷く。 多分、驚いていないのは彼女自身と、よく分かってないルイズの使い魔だけだ。 次にオスマンはキュルケの方に目を移し話を続けた。 「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの優秀な軍人の家系で彼女自身も中々の使い手であると聞く」 それに、ふふんと自慢するでもなく当然と言わんばかりに胸を張る。 隣にいるルイズも負けじと胸を張るのだが、いかんせんボリュームが違いすぎて同じ姿勢に見えない。 「そしてミス・ヴァリエールは数多くの優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の三女で…え~と…」 そのルイズへとオスマンの視線が映った瞬間、言葉が濁る。 男は理由が分からず首を傾げていたが、周りの人間は理解していた。 魔法が使えない貴族をどう褒めろと言うのか。 それでも試験終了前にマークシートを埋める生徒みたいに必死こいて説明を続ける。 「えーと、その、なんだ…熱心な勉強家で…、まあ将来有望というか大器晩成というか…」 ちらりと視線を変えた先には、ハッハッと息を荒げる彼女の使い魔の姿。 これ幸いとばかりにオスマンは話を使い魔のものへと変える。 「それに彼女の使い魔はフーケと同じくゴーレムを使うメイジと決闘し勝ったとの噂」 事情を知っているのはタバサとコルベール、オスマンの三人だけ。 ルイズとキュルケはただの噂だと思っている。 それでもここで否定しては男に反論の余地を与えるだけと黙っていた。 「…この犬がか!?」 男が疑惑の眼差しで彼を見る。 どう見てもただの犬、使い魔にさえも見えない。 ふと最近、同じような事があった気がし、はて?と記憶を振り返ろうとする。 それに気付いたコルベールが遮るように慌てて男に問いかける。 「あの、それでもご不満があると言うのでしたら同行されてはいかがでしょう?」 「な、何を言うか! 学院の問題は学院で解決すべき事、私が口を挟む事ではない!」 直接的ではないにしろ生徒による捜索隊を男は認めた。 勿論、彼女達に運命を託す殊勝さなど男にはない。 先程の発言は“自分は関知していない”との意思の現れであり、 仮に失敗したとしても支持したオスマンと彼女たちの責任となる。 それに生徒の身元もハッキリしていれば、そちらに責任を取ってもらう事も出来る。 つまり親元の弱みを握れるかもしれないという企みがあったのだ。 それが高級貴族であれば尚更である。 男の下衆な考えに薄々勘付きながらもオスマンは止めない。 元より命の危険さえある任務だ。 今はこの勇敢な生徒達に任せるしかないと覚悟を決めた。 いざとなれば自分が全ての責任を負うという決意。 「魔法学院は君達の努力と貴族の義務に期待する!」 「杖にかけて!」「わん!」 彼女達の宣誓に合わせ、彼も声を上げる。 ちょっと格好が付かないが、それは自分も仲間である事を示すためのもの。 それが分かっているのか、ルイズも注意するものの腹は立てていない。 キュルケもくすくすと笑い出し、タバサもどこか和らいだ表情だ。 早くもチームとしての結束は固まったようだ。 困難にも明るく立ち向かう生徒達をオスマンは頼もしく感じた。 そして彼女たちの横で必死に薔薇を掲げている男に気付く事はなかった。 「では私が案内を務めます。 ここから馬で四時間程の距離ですので、馬車での移動になります」 重要な用件だったので席を外していたミス・ロングビルが戻ってきた。 魔法での移動は消費も激しいし、シルフィードは目立ち過ぎる。 それに取り返した品や逮捕したフーケを運ぶとなると馬車の方が確実だ。 「それで盗まれたのは何なんですか?」 「むう…それはじゃな」 「君達には関係ない! 言われたとおり指示に従え!」 「何よそれ!? 盗まれたのがどんなのか分からなかったら取り返しようがないじゃない!」 キュルケの問いに詰まったオスマンを遮って男が強い語気で拒絶する。 そこまで言われて下がるルイズではない。 そもそも大きさも判らない物など捜索のしようがない。 懐に入る程度ならフーケが持ち歩いているかもしれないし、巨大なものならどこかに偽装して隠している可能性だってある。 いや、それ以上にフーケが持ち出した物が危険なマジックアイテムだったら…。 「貴方は何も知らせないままに、生徒を送り出す気ですか!?」 「ふん、知った事か。もし『例の物』について明かそうと言うであれば相応の覚悟をしてもらうぞ!」 「っ……! 分かりました。では納めたケースのイラストぐらいならば構わないでしょう?」 「好きにしろ」 そしてコルベールと男の会話はその予想を裏付けるのに十分すぎた。 土くれのフーケという強力なメイジに加え、謎のマジックアイテム。 そして非協力的な関係者の態度。 一向は行く先の不安を感じずにはいられなかった。 だが、それでも後には引けない。 胸中の悪寒を押し殺し、彼女たちは学院を後にした。 馬車に揺られる事一時間余り。 各々、爪の手入れをしたり、本を読んだり、 ちゃっかりソリに積んできたお弁当を食べたりと時間を潰すのにも飽きた頃だった。 コルベールから託されたイラストをルイズが開く。 描かれているのは普通の箱だ。 ただ横に書かれた数字が確かなら長さは槍ぐらい。 ただ、幅と深さがまるで違う。 中に柱でも入れたのかと疑いたくなる程だ。 「この大きさ…大砲かな?」 「まさか。それならもっと大きいわよ」 「待って! 端に小さく何か書かれてる」 ギーシュの予想をキュルケが否定する。 しかしそれに構わず、ルイズは紙の端に書かれた文字を注視する。 『まず、このような形でしか伝えられない事を君達に謝罪したい。 だが、私が秘密を打ち明けた事が知れれば私だけではなく君達にも危害が及びかねない。 だからと言って何も教えずに死地に送り出す事など私には出来ない。 奪われたのは“光の杖”という物だ。その詳細は判らないが武器である可能性が高い。 仮にもしフーケが武器として使ってきたならば…』 「…迷わずに逃げてほしい。何よりも君達の命こそが大事なのだから」 他の皆に伝えるように最後まで読み上げた。 「“光の杖”ね。結局、何か判らないんじゃ意味ないじゃない」 「そうでもない」 溜息混じりにキュルケが呟いた言葉、それをタバサは否定する。 奪われた物の詳細が判らないという事は、用途不明のマジックアイテムである可能性が高い。 あの状況から判断すると“光の杖”目当ての犯行ではない。 だから、どんな代物かさえフーケは判っていないのだ。 フーケが“光の杖”を使ってくる事はほぼ無いと見て間違いないだろう。 それでも用心に越した事は無い。 イラストを見る限り“光の杖”は武器としては大型に分類される物だ。 大砲に代表されるように持ち運びに不便でありながらも使われる理由は唯一つ。 他の武器には無い圧倒的な破壊力ないしは殺傷力である。 万が一にも使われる事があるとすれば捜索隊の全滅とて有り得る。 それをさせない為にも、まだフーケが何を盗んだのかさえ判らない内に決着を付けなくては。 タバサはそう判断し、フーケとの決戦を前に心を落ち着ける。 といっても周りから見れば、ただ本を読んでいるだけなのだが。 「そうよ。折角コルベール先生が危険を冒してまで知らせてくれたのに。 その態度は失礼じゃないのツェルプストー」 「大体、そんな危険な物なら自分で行けばいいのに。 ま、自信が無いってのなら来られても足手まといが増えるだけよね」 ルイズの聞き流しながらキュルケが、ちらりと『ゼロ』の主従の流し見る。 むー、とむくれ面をしているルイズはともかく、 未だにお弁当を食べ続けている使い魔の方は肝が据わっているのかもしれない。 (あるいは何にも判ってないだけかも…) 正直、その可能性が高いだけに不安が隠しきれない。 「ミス・ヴァリエールの言う通りですよ。コルベール先生に感謝しないといけませんね」 御者を務めていたミス・ロングビルが振り向いて話しかける。 自分の意見に同じてくれたのが嬉しかったのか、そうですよねとルイズが微笑む。 ルイズに微笑み返すと再び彼女は前を向き直す。 その顔は笑ったまま。 だがそれはミス・ロングビルの笑顔ではなく、 盗賊“土くれのフーケ”の嘲笑だった。 コルベールの誤算。 それは最も知られてはいけない相手が傍にいたという致命的なミス。 (本当に感謝するよ。宝をくれたばかりか、使い道さえ教えてくれたんだからね) 一行が辿り着いたのは小さな山小屋。 正直、世間を騒がす盗賊のアジトとしては拍子抜けだ。 恐らくは一時的なものか、もしくはアジトを転々と変えているかのどちらかだ。 どちらにせよ時間を掛ければ逃げられる可能性は高くなる。 そう判断したギーシュは各自の持ち場を指示する。 まずはギーシュとタバサが小屋に近づいて様子を伺う。 何も無ければワルキューレをそのまま突入させる。 ゴーレムを使うのは万が一の事態を考慮してだ。 キュルケは少し離れた位置から魔法で援護。 突入や撤退する際にも必要となる要だ。 ルイズとその使い魔、そしてロングビルは周囲の警戒。 犬だから鼻も利くし、もしフーケが留守中で戻ってくるような事があれば、即座に連絡できるように対処する。 「何か質問は?」 粗方説明が終わったところでギーシュが皆の顔を見る。 何故か皆一様に驚いた表情を見せている。 (ひょっとして僕の戦術眼の凄さを知らなかったのかな?) 一応、元帥の息子としてその手の教育は受けているのだが、そう見られてなかった事に僅かにショックを受ける。 そして、しばらくの沈黙の後。 皆の意見を代表してルイズが口を開いた。 「ねえギーシュ。貴方、どうしてここにいるの?」 もはや彼の心の傷は、いかなる水のメイジでも修復不能だった。 既に落ち込みを通り越して鬱になりかけているギーシュを先頭に、彼の指示した通りの位置へと移動し突入のタイミングを計る。 注意深く外から様子を伺うも気配が無い。 ディテクト・マジックで魔法を、目視で罠を警戒したが見当たらない。 用心しながら足を踏み入れると、そこはすでにもぬけの殻だった。 「もう逃げられたかな?」 「………」 埃塗れの室内を嫌そうに見て回るギーシュ。 それに対しタバサはテキパキと辺りを調べる。 僅かなりとも手掛かりが残されているかもしれない。 彼女はそう考え、部屋の捜索を続ける。 「無理だよ、無理。相手は“土くれのフーケ”だよ。 手掛かりなんて残す訳無いじゃないか」 「…………」 もう諦めムードのギーシュを無視し、諦めずに探るタバサ。 その手が部屋の隅に置かれていた布へと伸びる。 僅かに布が浮き上がっているという事は何かに被せてあるのか。 それを確かめる為に彼女は布を剥ぎ取る。 瞬間、タバサは息を呑んだ。 そこには彼女の予想を超えた物が置かれていたのだ。 「何それ?」 「……“光の杖”」 「は?」 そこにあったのは描かれたイラストと同じケ-ス。 小屋を見つけてから数分、捜索隊は何の障害も無く奪還に成功した。 レビテーションで“光の杖”を外へと運び出すタバサ。 一人室内に残されたギーシュは必死に自己弁護を図っていた。 「いや、だって普通に考えて盗んだ物、放り出していくなんて思わないじゃないか。 隠し場所にしたなら罠の一つもあってしかるべきだし。使い道が判らなくて捨てたのか?」 何度考え直しても自分に非は無い。 悪いのはフーケの非論理的な行動だ。 ふぅと何度目かの溜息をついた瞬間、埃が舞い上がる。 視界を覆う程の埃に堪らず咳き込む。 「げほげほ…何だよ、もう。何でこんな場所にフーケは隠れ…」 ふと違和感に気付いた。 椅子も机も埃が降り積もり、最近まで人が使った形跡は無い。 ならフーケはここに“光の杖”を置きに来ただけなのか。 何の為に? 罠も仕掛けずに、まるでわざと見つけ出させたかのような…。 「ギーシュ!」 外から聞こえる雑音を無視し、自分の推理に集中する。 見つけ出させてどうする? 持ち帰らせる? たとえば中に小型のゴーレムを仕込んで宝物庫に運ばせるつもりか。 ダメだ。そんなのはすぐ気付かれる。 僕達に見つけさせてフーケは何をさせるつもりだ…? 「ギーシュ!!」 「うるさいな! 今、考えが纏まりそうなんだよ!」 思考を遮る無粋な声を一喝する。 見れば全員離れた場所からこっちに声を掛けている。 その顔は必死で状況が切迫している事を告げる。 「早く! その小屋から離れて!」 「へ?」 間の抜けた自分の声。 それと同時に小屋が悲鳴を上げる。 天井を突き破って現れたのは巌のような足。 衝撃に大地が揺れる。 振り下ろされたゴーレムの足は一瞬にして小屋を瓦解させた。 その破壊力に、遠くから見ていた誰もが圧倒される。 怯えるように抱きしめたルイズの腕の中で『光の杖』が静かな眠りについていた…。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2361.html
「船長! 左舷後方に船影です!」 「ありゃこっちと同じ、貨物船だな。こんな時間に出会うとは、珍しい」 「どういうこと?」とルイズが会話に割り込む。 「出航する時に言ったとおり、風石ってのはえらく高くつくもんでしてね。風石を多めに 使っても構わない程の、よほど貴重な荷を運んでるんでもないと、こんな時間にこの辺り を船が通る訳がねえんですよ」 「なるほどねえ」 「ま、あっしらがここにいるのは、あのおっかねえ姐さんに脅されて無理やりなんで、風 石の不足分は何とかしていただきますぜ。でないと全員仲よくお陀仏ですからな」 「そりゃ大変よねえ」 「ですから早いところ、あのメイジの方を起こしてもらって、風の魔力の方を一つ……」 その肝心のメイジが水のトライアングルだと知ったら、この男はどれだけ慌てるだろう 。思わずバラしてしまいたくなる衝動に耐え、ルイズが本題に入る。 「そっちの方はうまくやるわよ。そんなことより朝食はまだなのかしら?」 「朝食って、さっき喰ってた肉じゃ足りないんで?」 そもそも勝手に喰うんじゃねえッ、とツッコミたかったが、そこは抑える。あのガンマ ンも怖いが、この傭兵の傍若無人さも、侮ったら痛い目を見ると本能が告げている。 「成長期なのよ」 『そうだぞルイズ、まだまだこれからだ。諦めるんじゃあない』 さすが実体を持たないポルナレフ! 常人には決して口にできない事を平然と言っての けるッ、そこにシビれる! あこがれるゥ! 空気を読めないのはむしろ特技だ。 「!」 ルイズが放った突然の凄みを、こいつは喰うといったら喰うスゴ味がある! と勘違い した船長が諦めたように言った。 「ちっ。また適当に見繕って済まして下さいや」 「そうさせてもらうわ。じゃあね」 何を諦めるなだってェ? とかなんとか、ぶつぶつ呟きながら船倉へ降りて行く、若い 傭兵を眺め、船長はやれやれとため息をついた。 「後方の船は、当船との併走コースに入るものと思われます」見張りからの報告が入る。 「そうか、この辺もそろそろ物騒な領域に入るからな。二隻で組んで行けるなら、それに 越したことはないだろう。砲門の数も倍になるしな」ちらりと笑みがこぼれる。 「よし、向こうもそのつもりだろうから、確認しておけ」 「あいあいさー」 船長の推測は道理である。しかし残念ながら、この状況は既にその埒外にあり、強引な 四人の乗客が予想して期待した、そんな展開を迎えようとしている。 「なんと言ってきた?」 「いっしょにあるびおんにいこうね。だそうです」 訊いた男の引きつった顔面に、獣の笑みが浮かぶ。コートの内にある鉄棒を布地越しに さする。いいぞ、とてもいい。 「で、ど、どうしますんで?」怯えきった声の男が問う。ルイズたちの船に追いつこうと している貨物船――身を軽くして急げと、全ての荷は捨てられているが――の、船長であ る。たまたま、そこに船があったというだけの理由で、この凶相の傭兵に徴発された、運 の悪い船の、運の悪い男だ。 「よろしくです。とでも言ってアレの横に着けろ。追いついたんだ、ここからはゆっくり でいい」 「へ、へい」あたふたと、船員に指示を出す。 手旗を振っている船員を眺めつつ、手下どもの待つ船室へ向かう男。その二つ名は白炎 という。 船ごと燃やして落とせとの指令だが、それじゃあつまらん。最後の一人が燃える匂いま で嗅いでやるのが、礼儀ってもんだ。特にあの女、あれは存分に抗いながら、いい香りで こんがり燃え尽きてくれそうだ。ああ楽しみだ。 「おうお前ら、仕事だ」 酒場での戦闘に参加させなかった十数名の傭兵、全員がメイジである部下たちに告げる 。どいつもこいつも、ろくでなしの貴族崩れだが、人殺しの経験だけは買える。おまけに 、死んだらカネで補充できる。さして高くもないカネで。こんな任務にはおあつらえ向き だ。 「いいか、焼いていいのは俺だけだ。殺す方は好きなだけ楽しめ」 「了解」 さあ戦だ。敵も味方も、存分に死ね。 「来るわよ」 朝食の干し肉を噛み千切りながら、王女の傭兵が主人のいる船室に入って報告する。二 日酔いでえらく不機嫌な姫が、気だるげに手を振る。もう一人は反射的に戦闘から離脱し てしまって、少し気まずい思いのアニエス。船の確保は果たしたとはいえ、状況から見れ ば同僚を戦場に捨てて逃げたと、思われても仕方がない。 「それは、この頭痛を晴らしてくれるくらいには、楽しめるのかしらね」 「さあどうだか。で、どうします? またわたしがこう、がつんがつんと」 「で、殿下! この場は何卒わたしにお任せを!」いささか切実な口調で懇願する。 「その呼び名は禁句ですよ、アニエス」 昨晩の安酒場で王女を云々と叫んでいた事など、さっぱり記憶にないアンリエッタが叱 咤する。 「まあ、それはともかく。わたくしがひと暴れする前の露払い、努めてもらいましょうか 」 「はっ、決してご期待には背きませぬ」 『おいおい。いいのかね、あの姉ちゃん行かしちゃって』 『いやいや、あの子はあれで侮れない実力があると見るぞ、私は』 元剣士の見立てだろうか、やけに自信のありそうな分析をするポルナレフ。かたやデル フは未だアニエスに握られたことがないので、その実力がどれほどか、その肝心なところ を知れないのが不満らしく、否定的だ。 「どうだかねえ」 「何だとコラ。わたしの腕が当てにならないと吐かすか!」 「あんたに言ったんじゃないわよ! って。そうよならないわよ! あんた昨日の――」 「やめなさい。仲よくしないと、わたくしが許しませんよ」 「ちっ」 「なな、何だその態度は! 畏れ多くもッ」 騒ぐ二人をぎろり、と睥睨するあらくれ。その瞳はもはや、高貴な光を湛えていない。 「……月夜の晩ばかりじゃないぞ」 「……あんたこそ、またブチのめされたくなかったら――」 猛る狂犬どもを従える面倒臭さにため息をついて、拳骨を二つくれたのち、王女は甲板 に上がった。 二隻の船が並ぶ。眼下に雲、天上に太陽。傍からその風景を見る者があれば、ちょっと 絵にでも描いてみようかと、思うかも知れない。 「行け野郎ども!」 「行くわよ!」 しかしそこで始まるのは戦だ。どちらかが必ず惨めに敗北する戦だ。 まるで開戦の合図があったかのように、二隻の船の船室から同時に飛び出す傭兵ども。 かたやわらわらと傭兵の群れ、こなた銃と剣の使い手が一人、と、杖を振り回すメイジが また一人。 「空賊だったっていうのか! この空域で、あの貨物船が?」 「船長! 鉤ロープで捕獲されました! 離脱不可能です」 「くそうっ。何なんだまったく。昨日から散々だ!」 とにもかくにも死んだら終わりだ。船員に一切の抵抗を捨て、状況が納まるまでどこで もいいから亀のように引っ込んで、決して動くなと指示を出す。そしてとても嫌そうに、 乗り込んできた一団の、首領とおぼしき人物へと向かった。もちろん、降伏をするために 。 「邪魔だ!」 両手を上げて甲板を進む船長を蹴り飛ばした、アニエスが怒鳴る。両手に銃把を握り、 双眸をギラつかせている。目標は殿下の覇道に転がる石ころ、容赦も慈悲も必要ない。連 射性能の望めないこれが有効なのは、初弾の二発。これを速攻で敵の首領にブチ込む。残 る雑魚共は剣で殲滅する、これで任務完了だ。このわたしの前に立ったこと、後悔させる 暇さえ与えない―― 必中の手応えを確認し、では残党を狩り尽くしてやるかと、火傷顔からその取り巻き共 に視線を移して甲板を蹴ろうとした瞬間、予想外の衝撃がその身体をブッ飛ばす。半身を 襲う、ぶすぶすと肉の焦げる臭い、尋常でない激痛が骨の髄まで轟く。 「なん……だと……」燻る右半身を反射的に上にひねって倒れながら、既に倒したはずの 男に視線をやり、その身体に血飛沫の一つもないことに絶望した。ありえない、そんな規 格外の暴威、銃弾すら凌駕する魔力だと、何だこれは。で、殿下ッ、この男は危険です。 わたしがすぐに参りますから、この男に近づくのは…… 「わたくしの盾に瑕をつけてくれたようですね」 部下の無残を前に毛ほども揺るがない、平静そのままの声でアンリエッタが高らかに宣 告する。執行が決まった死囚へ告解を施すような表情だ。神の執行代理人として裁定者と して、これから行うことが救済であると、行われなければならない断罪であると、覚悟を 求める顔だ。 「焼き応えのない姉ちゃんだったな。匂いがもの足りねえ」 「なればわたくしが、その炎を消して差し上げなければ参りませんね」 「できるか? やってみろ。受けてやる」背後の部下に向けて怒鳴る。「この女とサシの 勝負だ、邪魔をして俺の機嫌を損ねるんじゃあねえぞ!」 何しろ火線上にいた、というだけの理由で味方ごと、黒焦げの死体にした事のある男の 命令だ。誰だってわが身は惜しい。まあどうせすぐに終わるさ、と詠唱を中断して傭兵た ちはしばしの見物を始めた。 対峙する二人の背後に現れた、アルビオン大陸。『白の国』の形容そのままに、流れ落 ちる川の流れが霧と変わり、雲となり大陸を白く煙らす。氷の憤怒を纏う水の王女が、そ の力の根源を呼びながら進む。 「消し炭にしてくれる!」叫ぶ声が小さく、遠く聞こえる。 水の鎧を絶え間なくその身に現し続け、火の傭兵へと歩を進める。業火が踊っている甲 板を弛まなく歩む。一歩、足が触れるごとに、その周辺の炎が力を失い、掻き消える。ル ーンを刻む口唇が嘲るように歪んでいく。万人を鎮め、万物を水平に至らせる我が水の力 、侮るでない。 「『火』も『水』も無駄ッ!」その声と杖が放たれた瞬間、辺りの炎、その全てが霧散し た。 「なるほどたいしたもんだ」絶対の自信の源であった炎を無効化されたというのに、不敵 な笑みを浮かべたままの男がほざく。「火と水、相性が悪いとはいえ、この俺の炎を消し てみせるとは。だがな、魔法が効かないなら、効かせてやることもできるんだぜ」 杖代わりの鉄棒をすっと引き、構える。 「その杖を叩き落しちまえばなあッ!」 アンリエッタの手にする杖を、その身体ごとなぎ払わんと鉄棒が振るわれる。当たれば 杖は折れるだろう、細身の身体も無事では済まないだろう、当たれば。 「ぐお」杖を手放したのは、果たして傭兵の方だった。絶妙の払い流しが鉄棒の軌道を変 え、空振り甲板を打たせる。そこをすかさず巻き落しにて逆に捻ったのだ。どれほど力が 強くとも、関節の稼動域を超える作用に逆らうことはできない。間、髪を容れずアンリエ ッタの腕がしなり、その先の杖が腕部の急所――手首・肘・肩口――を突く。 相手の杖が甲板に転がるのを見やり、詠唱を開始する。技と力を封じられた傭兵の顔色 が褪めていく。ありえないことが二度続いたのだ、無理もない。 「……燃やしてやる……こんな現実は燃やしてやるよ……」棒立ちの傭兵から呟きが漏れ ている。少し、目が虚ろだ。 「跪け!」詠唱の完成と同時に杖を振り下ろし、命令を下すアンリエッタ。既に決してい るように見える勝負、しかしこのアンリエッタ容赦せん! とばかりに水の魔法が振るわ れる。水球が傭兵の頭部を丸ごと捕らえ、息を奪う。哀れな男がごぼごぼと息を吐き出し つつ倒れ、悶える。その姿を感慨もなく見下ろし、振り返る。「船長?」 「へ、へい」甲板と大砲の間に押し込まれた格好で震えていた船長が、恐る恐る顔を覗か せる。 「この男を拘束してもらえるかしら?」 「いますぐやりますですハイ」いつのまにか、立っている空賊が一人もいなくなっている ことに驚き、慌てて部下たちを呼び集め、指示を出す。ようやく水球から開放された男は 、おとなしくぐるぐる巻きにされている。苦しげに水を吐き出しながら。 「さて」縛られて転がる男に再度、杖を向けて問う。「そなたの炎、なかなかのものと見 たので欲しくなりました。わたくしに従うのであればその命、買い上げましょう」 苦しげな動作で頭を垂れ、肯定の意を示す男。ここで殺せなどと強がったら、一体どん な殺され方を味わうはめになるのか、想像もしたくない……。 「よろしい。その炎、以後はわたくしの為にのみ、揮いなさい」 火と水の戦いの間。船尾から隣の船に乗り移ったルイズは、ただ一つの動作に没頭して いた。休めの姿勢で見物に興じる傭兵どもの背後にまわり、ポルナレフに教わった、人体 を即死に至らしめる一点、腎臓に刺突を繰り返す。 「腎臓を中心に捉えて……刺す、腎臓を中心に捉えて……刺す、腎臓を中心に捉えて…… 刺す」声には出さず、そして声もなく苦痛もなく絶命する傭兵。簡単すぎて少し呆れなが ら―― だるそうな足取りでアニエスを引きずって、船室へ向かうアンリエッタの許に、一仕事 終えたもう一人の盾が歩み寄る。 「ありゃ、もう片付いちまいましたかい?」小刀の血糊を拭いつつ、軽口を叩くルイズ。 「ふふ、すっかり傭兵の口調が板についてますのね。ああ、あの者を雇うことにしました から、殺してはいけませんよ」と、空いた手を後ろの甲板で倒れ伏している傭兵に振る。 「そりゃ、まあ。って姉御!」 精神の消耗が限界に到達したアンリエッタが、膝をついた格好でアニエスをルイズの腕 の中に押し込み、崩れ落ちる。 『いい根性だ。この姫様には『黄金の意志』があるぞ、ルイズ』 「知ってるわよ。だから――」 何かを回顧するように、遠い目であらぬ方を見つめている、左手のポルナレフを振り回 しながら船室へ向かう。全開で死力を尽くした姫を、寝かせてやらなくては。アニエスは 床でいいか。つうかこいつ、服が焦げたくらいで終わっちまったのかよ。そんで主君に連 れられてご帰還とか、超へタレなんじゃないの? 二人をそれぞれ安置して、甲板で困惑顔の船長に声をかける。「どう? 生きてる?」 それが他の船員も含めての問いだと気づいた船長が答える。 「へえ、慌てて転んで足をくじいたのやら、小便を漏らしたのやら、みっともない次第で すが全員生きてますハイ」 それはよかったと頷き、焼け落ちた何枚かの帆を張りなおして、操船を再開させるよう にと命じると、舷側を蹴って隣の船に移った。 傭兵の死体をおろおろしつつ見つめている船員の肩を叩き、船長の所在を訊ねる。戦闘 が始まった拍子に一目散、船室へ駆け込んでそれっきりだそうだ。 「やれやれ」これならあっちの船長の方が十倍マシだわ。 船室のドアにはご丁寧に錠まで下ろされている。もう馬鹿にした笑顔満点のルイズが『 アンロック』を行う。もちろんそれは魔法ではなく、どちらかというと蹴りだ。 外開きのドアを無理やり内に蹴破って、船長らしき男を捜す。あ、あれだ。隅の暗がり に頭を抱えてうずくまり、尻をこちらに向けている男、あれに違いない。 「おい、おっさん。あんたが船長だろ?」尻に蹴りを入れるルイズ。 「ひゃい、い、命ばかりはお助けをー」 「ごろつきどもは始末した、もう死なねえから起きな」尻に蹴りを入れるルイズ。 「へ? た、助かったんですか?」 「ああそうだよ。だから起きろって」尻に蹴りを入れるルイズ。 安心より、尻を蹴る脚から逃れようと、よろよろと立ち上がる船長。貧相を絵に描いた ような顔の五十男が、卑屈な笑みを浮かべる。股間には特大の染みをこさえている。げ、 まさか濡れたとこ蹴ってないよな。ルイズは自分の船の船長の評価を、この男の五十倍に 修正した。 「あたしらはあっちの船の傭兵だよ」そういうことにしておくのが楽だと決めたルイズが 、靴に異常がないか確かめつつ言った。 「傭兵の方でございましたか、このたびはまことにありがたく――」 「まあ、それはいいからさ。この船はどこに向かう予定だったんだい?」 「ロマリアでございますです。積荷は捨てられてしまいましたが」 「へえ、それはよかった」そう、よかったのだ。ロマリアはアルビオンより遠い。風石も たくさん積んでいる。二隻でアルビオンに辿りつくのも可能だろう。いざとなればこの船 の風石を頂いて、アルビオンに向かう予定だったのだ、沈まずに済んだのは運がいい。 何がよかったのか理解できないでいる船長に、「いいからとりあえず船を動かせるよう にしな」と、やることを与えてやり、ルイズは自分の船に戻った。 「喜べ船長、予定通りに風石が届いたわよ」 「なんですと?」 すっかりメイジの魔力で浮力を補うとばかり、思い込んでいた船長が仰天した。そもそ もついさっきまで、拿捕されたり、降伏しようとしたり、魔法戦が始まったりと訳の判ら ない展開ばかり。その上お次は襲ってきた船が風石を届けにきてたって? 「で、ではあのメイジの方は……」 「疲れて寝てる。ちなみにあの姐さんは水のトライアングルだから」 「じゃ、じゃあ、あの船が」と指さし、「あの空賊どもがくるのを判ってたんで?」とさ らに混乱した船長が尋ねる。 「空賊じゃなくて、ごろつきどもに乗っ取られたんだけど、そんなところね。いきなり船 に火を放たれなかったのは、運がよかった。というか、あの大男の趣味が悪かったのがよ かった、そんな感じ」 「もう、なにがなにやらですよ」 「ま、あんまり考えない。悩むとハゲるわよ。風石の方は任せたからね」 仲間の元へ戻っていく傭兵の背を眺めながら、船長がひとりごちる。 「しかしまあ、一難去ってまた一難、それも終わっちまえば、もう何にもないだろうさ」 ――しかしそうは問屋が卸さない。悪いことのあとに良いことが待っているというのは 、そうなるといいな、という願望に過ぎない。 船内に平和が戻って半刻ほど経った頃だろうか。 「せ、せ、船長! 空賊です! また空賊です! 右舷上方!」 船を見ればそれ空賊と、すっかり思い込んでしまった見張りが叫ぶ。まったくこのこし ぬけどもが。俺はもう何がきても負ける気がしねえよ、この船の武装に敵う奴らがいてた まるか。 そんなヤケクソの境地に至った船長が、見張りの示す方向を見上げてつぶやいた。こり ゃまた、今度は軍艦かよ。砲門がずらっと並んでやがる。でもなんだ、どうせ乗り込んで くるんだろ? ご愁傷様だね。 「あの船は旗を掲げておりません!」ほらな。 「ようし、さっきと同じだ。停船して隠れちまえ。あ、隣の船にも伝えておけよ」 きびすを返し、傭兵たちのいる船室へ向かう船長。その顔には隠し切れない諧謔が現れ ていた。 「また出ましたよ。今度は軍艦ですよ」と船長が声をかけ、返事を待たずに船室へ入る。 あーあ、もう。何て緊張感のない人たちなんだ、まったく。 「起きて下さいよう」ゆさゆさとルイズの肩を揺する。 「んが」 「船長が起きろってよー、軍艦だってよー」と床に刺さった剣が喋る。 「もう……食べられないよう……」 「姐さーん、敵ですよー」と船長。 「姐さーん、敵だってよー」と剣。 「どうしたら起きてくれるんですかい、このお人は?」と、今度は剣に向かって船長。 「そうだねえ、大砲でもぶっ放せば起きるかもね」と剣が答える。 と、そこで実にタイミングよく、外から轟いた砲弾の音。ぼごん! その音が傭兵たちの何かのスイッチを入れたのだろう、ぐわしと眼が見開かれ、がばと 起き上がる二人、そして文字通り飛び起きる一人。 「なっ!? 寝たままの姿勢! 掌だけであんな跳躍を!」船長がぶったまげる。 「敵は何? 何人?」着地と同時に剣をつかんだルイズが船長に訊く。 「ぐ、軍艦でさあ、人数はいっぱいです!」 「あ、あれ? わたしさっき焼かれて……」五体満足に床から立ち上がったアニエスが首 をかしげている。 「わたくしの盾ですからね、治しておきましたよ」とアンリエッタ。 「おお、殿――ぐあっ」言いかけたアニエスに、笑顔で肘を叩き込むアンリエッタ。 「それはともかく、軍艦とはまたご大層な。まあよいですわ、手土産をもう一つ増やして 差し上げましょう」 「と、とにかくお願いしますよ!」まだ外の方が安全で平和だ、と察した船長が甲板に走 って消える。 「んじゃまたわたしが、こう、ずばんずばんと」と意気込むルイズ。 そこに羞恥で顔を染めたアニエスが割り込む。 「こここ、今度こそ、私めにお任せを!」 「無理じゃね?」鼻をほじるような声でルイズ。 「ば、馬鹿を言うな! 先ほどは少しばかり油断しただけだ!」 「まあまあ姐さんたち、ここは一つ協力し――ぐあっ」仲裁空しく豪腕パンチを食らうデ ルフ。 「ルイズ、アニエスもこのままでは浮かばれません、先陣は任せましょう」 『そうだぞルイズ、アニエスが可哀相だ。たまには――』空を切る右腕、ポルナレフは痛 くも痒くもない。 「ちぇっ、姉御がそう言うならそれでいいですよ」 「さ、お行きなさい。期待してますよ」 「ありがとうございます! で……姉御! いざ!」先の不様を反省したのか、銃を放り 出し、剣を抜いて甲板に走るアニエス。 「空賊だ! 抵抗するな!」とメガホンから空賊が怒鳴っている。 「どおりゃああ」と掛け声も勇ましく飛び出したるは王女の盾、アニエス。しかしその瞬 間、アニエスの頭が青白い雲で覆われた。アニエスは甲板に倒れ、寝息を立て始めた。 「眠りの雲……、確実にメイジがいるようだな」半笑いで冷静に状況を見るルイズ。 「……っ」こらえている、こらえているアンリエッタ。 「ありゃ。あそこで寝られたらちょいと厄介じゃないの?」デルフも冷静だ。 『うーん、あの子はやればできる子だと思ってたんだがなあ』ポルナレフは同情している 。 「しかたねえ、少し様子を見ますか姉御?」 「そ、そうねっ……っ」まだ何かをこらえている。 「船長はどこでえ」 おとぎ話の挿絵から抜け出たような、呆れるほど典型的な装いの、空賊の頭らしき男が じろじろと辺りを睥睨する。眼帯を巻いているので片目で。 階段の影からその様子を眺めていたアンリエッタが、予想だにしなかった、新たな方向 からの衝撃により、絶頂に達してしまったようだ。 「プッ ウヒヒヒヒヒヒヒ!! ハハハハハハハハーッ!」 腹を抱え、もう完全に無防備で爆笑を続けながら、空賊の頭へ向かうアンリエッタ。 そんな妃殿下の姿を唖然とした表情で見送るルイズ。空賊たちも同様だ。 「もうだめだ………こいつ、完全にイカれちまってるぜ……」 一人は眠らされ、一人は爆笑しながら頭の肩を叩いている。どうしたらいいんだオイ。 「フハハッ クックックック ノォホホノォホ……ホ、ひょっ、ちょっとあなた、こちら へいらっしゃい。ウヒ」 「な、なんでいおめえは」この容姿にも背後の軍艦にも動じることなく、俺の肩をばんば んと叩いて爆笑しているこの女は何だ。何がどうなってる。もしかしてこの格好、変なの かな……。 そうこうしつつも、ぐいぐいと腕を引っ張られ、船室に連れ込まれる頭。いいからいい からクックッフヒヒヒとまだ笑うアンリエッタ。困惑の極みながら、ルイズもついていく 。 首領を椅子に座らせ、呼吸を落ち着けるアンリエッタ。 「ぶ……っ、くはあ」よほど腹筋を酷使したのだろう、腹を押さえる表情が苦しげだ。 「何なんだと訊いている!」 「か……」 どうにか半笑いまでに回復したアンリエッタが頭に告げる。 「風吹く夜に」 「なぜそれをっ!」 「水の誓いを、ってこちらがわたくしの台詞よね。お久しぶり、ウェールズ・テューダー 」 「なんですと」ルイズが思わず突っ込む。このコスプレ野郎が皇太子だと。ありえん。 懐から鮮やかに青く光る指輪を取り出して、指先でくるくる回してみせるアンリエッタ 。 「しかし、君がなぜここに。そもそもまるで面影がないではないか」 「三年も経れば女は変わりますわ。あとは少しの変装で目を欺くなど容易いこと」 髪を煤けた金に染め、眉を細く酷薄な形に整え、鈍い色の口紅を差す。彼女が顔に施し たのはそれだけである。むしろその本質はその下、その豊かな双子の霊峰を、あらゆる方 向から締めつけ持ち上げ覆い、その造形を輪郭を一片も損なうことなく、遍く強調する黒 革の服だ。その拘束から唯一逃れるは中心に輝く丸窓から覗く峡谷、白磁のような透明感 と流水の滑らかさにて彩る絶景、漆黒と乳白が対照の妙を示す。闇の中のまたたく光だ。 老若男女を問わず、その威容を目にすれば、彼女の印象のほぼ全てはそこに集約される 。曰く、とんでもない谷間だった、と。顔の方は精々、おっかなかった、かな? という 程度で完結する。ちなみに、その更に下には膝上二十サントの短い、非常に短い黒革のス カートを纏い、腰にはゴツく太いベルトを無造作に巻いている。これはまたこれで、好事 家には垂涎の的になること請け合いだ。 「しかしあなたのそれは傑作ですわね」と、また発作がくるのを抑えつつ、アンリエッタ が言う。 「そうかな? 自分ではわりとよくできてると思うんだが」 「どれだけ装おうとも、あなたのそれは隠しきれませんわ。片方を塞いでいればなおさら です」 「こ、この眼帯がいけなかったのか?」 「眼帯をしている男がいたら、開いた方の目をどうしても注視しまうものです。そして、 そこにあるのが『王子様の瞳』では。これはもう笑ってしまいますわ」 「ううむ、やはり君には敵わないな」 「さあ、それを外してわたくしの美男子を見せて下さいな」 眼帯をアンリエッタに取り上げられたウェールズが、かつらを外し、べりべりとひげを はがす。美……美形だ! 「ああウェールズ。そうよ、そうでなくては……」 甘ったるい展開が始まりそうな予感に、ルイズは船室から逃げ出した。 ぽかんとした空賊たち、手を挙げるかどうか決めかねて困ってる船長、すやすやと眠る アニエス。ぐるぐる巻きの大男。ああもうしょうがねえなあ。 「船長、船を出す準備をしな。そんでお前ら、『王子様』はうちのボスと乳繰り合ってる から、ま、そういうことだ、元の仕事に戻りな。んで、起きろねぼすけ、オラ」アニエス に蹴りを入れるルイズ。 その言葉に目を丸くした空賊が訊ねる。 「え? あっしらの正体が割れちまったんで?」 「その喋り方ももういいから、ほれ、とっとと国に帰るんだよ」不機嫌そうにルイズが応 える。酒だ、今日はもう飲むぞ。 「皇太子が空賊の真似事とはねえ、いやあ、おでれーた」 『返り討ちにあって捕らえられたり、死んだりしたら、どうするつもりだったんだろうな 。国を滅ぼしたヴァカと、歴史に名を残してしまいそうなものなのだが……』 「うるさいわねもう。明日は戦争なんだから、今日は飲むのよ!」 担ぎ下ろした樽の蓋をデルフリンガーでこじ開け、杯をごぼりと沈めてワインを汲む。 穏やかな陽光の下、舷側を背に酒盛りを始めたルイズ。結果的にとはいえ、命を救われた とあって咎める者はいない。むしろ賞賛の目をちら、と向ける船員もいる。年齢で比べれ ば、この船の一番若い船員とルイズがどっこいであり、しかも女。そんな彼女がばったば ったとメイジの傭兵どもを切り伏せて見せたのだ、さもありなんである。 「ぷはあ、いい汗かいたあとの酒は格別!」 『しかしまあよく飲むな、私の祖国の連中といい勝負だ』 「フランス、だったわね」 『ああ、世界一のワインを醸す国だ。もっとも、この世界のワインを試したことがないの で、どちらが上かは判らないが』 「わたしがフランスのワインを確かめるわよ、いつかきっと」 『そうだな。君となら行けそうだ』 「姐さん! その時にはもちろん俺も一緒だよな!」 「そりゃ、杖を持たないで行ったら格好がつかないしね」 「ひゃっほー」デルフはとても嬉しそうだ。 『しかしデルフ、あっちの世界で抜き身の刀を背負っていたら、即、逮捕だぞ』 「心配すんなって相棒、その頃には姐さんも、もでる並みの立派な身体になってらい!」 「何よそのもでるって?」 「いやこれが相棒から聞いたんだけどさ、あっちの世界にはこう、すらっとした長身の超 絶美人たちが最高級の服を纏って、舞台を練り歩いたり本の表紙を飾ったりする仕事があ るんだと。しかもそれがそこいらの貴族なんぞより、がっぽり稼いでるっていうじゃねえ か!」 「ふうん、仕事にも色々あるのね」満更でもなさそうだ。 「いま十六だろ、姐さん。あと二・三年もすりゃ、凄いぜ。俺には判るね」 『秀逸な身体能力、鋼の精神、類いまれな食欲。私も同意する、ルイズ、君は伸びるぞ。 まさにあらゆる意味で』 「ちょ、何だって今日はそんなに褒めるのよ、何も出ないんだからね!」 「そりゃまあ、ほら。見ちまったからな。姐さんの『覚悟』を」 『敵と認めた奴ばらを、完膚なきまでに殲滅するのと同時に、味方、いや『敵ではない』 者の全てを決して傷つけさせない、その『覚悟』、尋常には身につかない黄金の煌きを、 見てしまった。かつて私が全てを託した男、その精神をすら越えんとする可能性を』 「わ、わたしは本能のままに暴れただけよ! 他の連中が死ななかったのは、運がよかっ ただけよ!」 「でもよ、あの姫さまとガンマンの姉ちゃんだけでここに向かってたら、酒場で全滅、船 に乗る前に全滅、傭兵の来襲で全滅、どう見ても三回は死んでるぞ、この船の船員も含め て」 「し、失礼ね! 姫さま一人だったら誰にも負けないわよ!」 「でもなあ、ほら、あの人は盾とか言ってるわりに、自分より部下の命を優先してるよう に見えるんだけど」ああ、確かにそう言われたら、そんな光景は想像に難くない。 『我々の期待がどうこうではないんだ。英雄を求めるのでもない。君が君のまま、立ちは だかる壁をぶち壊して拓く道を、並んで歩いて見たい。それがいまの私の望みだ』 「それだ! 俺もだぜ姐さん!」 「わたしもよ!」いい感じに盛り上がった雰囲気に押されて、つい。 そしてこの時、この日、三人(?)の心は一つとなった! 「ぶえっくしょっお」ぶち壊しのくしゃみが樽の向こうから炸裂する。うるさい、黙れ、 団体行動を乱すな。そもそもそのぐるぐる巻きをどうにかしろ。 ん? ああ、忘れてた! 傭兵の首領だっけ。炎の男だ。 「おっさん、あんたも飲むかい?」樽に話しかける。口調が傭兵のそれに戻っている。 「どうやって飲めってんだよ!」転がる男、ぐるぐる巻きの男が凄む。 「ああ、その格好じゃあ、辛いよねえ」 「縄を切ってくれたら礼を言うぜ」ぐるぐる巻きなのに生意気だ。上下関係というものを 骨髄に刻んでやらないといけないようね。 「あんたさっき、姉御に忠誠を誓ってなかったっけ?」 「あ、ああ。あれは駄目だ、逆らえねえ死にたくねえ」 「でもさ、あれであの姉御、すげえ手加減してたんだ。王者の技、喰らわなかったろ?」 「王者の技?」 「ああ、肉体言語さ。極められた瞬間に関節が『ありえない方向』に曲がるんだぜ、絶対 に逃れられねえ」 「……なん……だと……」 「でな、その姉御ほどあたしは優しくねえんだ。使えない奴、逆らう奴、反抗的な奴、全 部ブチ殺してきた(嘘)。死体は逆らわねえからな。お前が寸刻でも姉御の背後を狙って みろ。その瞬間が三十二分割に刻まれる経験を味わう人類最初の一人になるぜ(嘘)」 「……くっ、畜生。認めてやる! 認めてやるよお前たちを! だから! 俺を置いて、 仕えると決めた俺を置いて、先に行くんじゃねえ!」 「純情だな。ああ、純情、純真な男だ。おっさん、気に入ったぜ。今日から、おっさんは わたしの部下だ。……そんでおっさん、あんたの名前、何ていうんだい?」 「メンヌヴィル、“白炎”のメンヌヴィルだ。俺の炎は全てを焼き尽くし、そして匂いを 嗅ぐ」 「変態ね」 「ああ変態だな」 『変態以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!』 ついうっかり己の性癖を開陳してしまった白炎が、慌てて取り繕う。 「任務と仕事、それと『身を守る』以外に炎を振るったことはねえよ」 その残忍極まる雰囲気からして、身を守るの範疇が相当に逸脱しているだろう事は、難 なく予想できる。やはりこの男、変態だ。諦めろ、そして受け容れろ。 「まあ、変態でもいいか。あの姉御が見込んで雇ったんだ、役に立つのだけは間違いなさ そうだし」 「おう、使える男だぜ俺は」 「よし、今日からおっさんは“肉焼き名人”のメンヌヴィルだ。こんがり肉Gをたくさん 焼いて貰うぞ!」 「な、何だよそりゃ。俺を勝手に料理人にするな!」 「まあまあ。街に帰ったら高級肉焼きセットを買ってやるから、な?」 「く、くそっ。まあいい、お望みならば焼いてやるよ。俺も肉は食う」 「ようし商談成立だ」そう言うと、傍らに刺さったデルフを抜き、肉焼き名人の戒めを解 除する。 「飲むぞ!」 「おお、そうだな。飲ませて貰うぜ!」 酒宴の続く中、二隻の貨物船と一隻の軍艦がアルビオンを目指す。追い詰められ滅びの 淵にある国へ。明日は戦争だ!
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/5846.html
ゼロクリーチャー ゼロクロスギア ゼロ城 ゼロD2フィールド ゼロオーラ ゼロタマシード シークレット 《枢軸秘伝テンペスト・ミスター》 《LASTエヴォリューション》 《最強のカード(笑)》 KMS 《終極 絶無王の暴威》 SR 《最終自爆》 《強制リセットの儀式》 《魔法龍の暴走》 《another dimension》 《白・魄・剝》 《未来改変》 VR 《クレイジアの除去》 《ファクイエスの追及》 《メルタギアザの獄剣》 《ゾディアック・サーチャー》 《シルバー・ライトニング》 《絶望王秘伝ラグナロク・レクイエム》 《当選と弾丸と切札の決断》 R 《禍福秘伝 HEAVEN×HELL》 《キュレーシアの名作集》 《恒星殺魔術》 《恒星魔幻想》 《ザ・ファースト・バイオレンス》 《天獣秘伝ビースト・ナンバー》 《零式解印術》 《パラダイム・シフト》 《メガ・ラセン・キャノン》 《超・超次元GRホール》 《神刃 トングニル》 《虚無の汚泥》 《超次元オールマイティ・ホール》 《パラレルゲート》 《逆封印の陣》 《無名顕現》 《空と白の記憶》 《時よ、進め!》 《時よ、止まれ!》 《時よ、戻れ!》 《血脈の胎動》 《ハイパー・ゲート》 《超次元連結 GRホール》 UC 《五魂招来》 《名無しの迷い人》 《チェナの文学作品》 《クリューレの庭園》 《超神星》 《キャット・アイ》 《猛進撃! ノーカラーズ!》 《偽りのホワイトペインタ 》 《キリング・ヴォイド》 C 《策略のUNIT》 《無限の境地》 《ゼロの境地》 《改造手術》 《ピリアの設計図》 《星滅恒星弾》 《封印解放》 《魔法弾》 《零式防封術》 《リ・サモン》 《ブリザード・チャージャー》 《鏡の片割れ ~陽~》 《鏡の片割れ ~陰~》 《クリア・チャージャー》 《衝撃するエア・クウェイク》 《出落ちショット》 《エンゲージ・ヴォイド》 《Go! Go! GR!!!》 P 《マブダチ・ビックバン》 《天頂讃歌 ゼニス・ヒィム》 《ビスクエイズの聖書》 《ナイトメア・ビフォア・クライシス》 《存在の消失》 《概念の消失》 《デストロイコード E5》 《壊運福袋》 《絶望のプレリュード》 カードリスト
https://w.atwiki.jp/madeinore_friend/pages/384.html
このページがでてきた場合、名前設定を間違っていたことになります [[ゼロ3]] → [[ゼロ3]] 上のように直してください。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2023.html
次々と炎に包まれ、地に落ちていく仲間の竜騎士達の姿を、 代理指揮していた男が呆然と見上げる。 アルビオン最強と謳われた彼等は特別な事など何もしなかった。 突撃によって撹乱し、分断された竜騎士を包囲、各個撃破した…ただそれだけだ。 たったそれだけの事で並み居る竜騎士達は零れ落ちる砂時計のようにその数を減らしていく。 状況に合わせて各自が最適の判断を下して行動する。 一人一人の神経が繋がってるのではないかと思わせる王直属竜騎士隊の連携に、 男はまるで巨大な手に握り潰されるのにも似た錯覚に陥っていた。 彼は初めて理解した。 自分が国王直属の竜騎士隊に選ばれなかったのは機会に恵まれなかったからではない。 純粋に自分の実力がその域に到達していなかっただけだと。 「ヒィ……!」 目の前を通過していく炎の塊に凝視されて男は我に立ち返った。 如何に歴戦の竜騎士達も急な代理指揮の下で実力など発揮できる筈もない。 このままでは全滅を待つばかりじゃあないか。 彼はすぐさま撤退を指示し、火竜の尻尾を巻いて逃げ出した。 増援を求めるだけなら抗命罪で処罰される事はないだろう。 本陣には彼等の数十倍の竜騎士隊が待機している。 どんな英雄だろうと圧倒的な数の前では無力に過ぎない。 そう自分に言い聞かせながら自身の火竜を全力で駆る。 退却していく竜騎士の姿を見て緊張の糸が切れたのだろうか。 キュルケの腰がどさりとシルフィードの上に落ちた。 「ごくろうさま。送り狼どもはこちらで引き受けよう」 「ええ。そうしてくれると助かるわ」 それを眺めていた隊長の冗談にキュルケも応じる。 しかし両者の心中は互いへの感嘆に満ちていた。 たった二人で竜騎士隊に果敢にも挑んだ勇気ある二人の少女。 あれほど苦戦を強いられた敵を事も無げに追い払った竜騎士。 瞳に映る者こそ違えど、そこには英雄の姿があったに違いない。 「その代わり、城門へ向かってくれ。 誰かは判らないがそこで交戦しているらしい。 もしかしたらまだ生存者がいるのかもしれない。 そいつ等の救出に当たってくれ。 風竜単騎なら敵の追撃からも逃げ切れるだろう」 半ば曖昧な言葉で彼は頼み事を告げた。 何しろ彼自身でさえ確信が持てないのだ。 城内に舞い戻った彼が目にしたのは多数の敵兵の屍骸。 否。それは屍骸と呼んでいいのかさえ定かではない。 原形さえも留めぬそれは肉塊以外の何者でもなかった。 そして警戒しつつも無事に火竜の厩舎に辿り着いた彼は、 城門の向こう側から響く銃声と悲鳴じみた敵兵の雄叫びを耳にした。 誰かが城門で交戦しているのだろうか。 しかし手助けに行く余裕はなく、彼は部下を率い『マリー・ガラント』号の救援へと赴いた。 冷静に考えれば、それだけの兵力が王党派にある筈がない。 だが幻聴というには鮮明で、足元に転がっていた物は幻覚ではない。 もしも生き残りがいるというのなら一人でも助けたい。 それが本音だったが恐らくは理解されまい。 いるかどうかも判らない生き残りの為に、 彼女達は動いたりはしないだろうとそう思っていた。 しかし、彼の言葉に彼女達は互いの顔を見合わせ頷いた。 「…タバサ」 「間違いない。彼しか考えられない」 心当たりがあるのか、即座に応じた彼女達が空を駆ける。 そこに誰かの声がかけられた。 あまりにも弱々しく、か細い声。 なのに鮮烈に彼女達の心に響き渡った。 振り返れば未だに燻り続ける甲板の上に、一人の少女が立っていた。 整ったいた桃色の髪を振り乱し、胸元を裂かれた服の上にコートを羽織りながら ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは必死に叫び続けていた。 「ルイズ!?」 「お願い! 私も一緒に連れて行って!」 壮絶な姿を晒す彼女にキュルケも言葉が詰まった。 ルイズの傷は決して浅い物ではなかった筈だ。 それは身体だけではなく心も同様だ。 必ず連れて変えると約束して安静にさせるべきだと判っている。 だけど彼女の眼を前にすると言葉が出なくなった。 既に覚悟を決めている彼女に何を言えば説得できるというのか。 思い悩むキュルケを余所にルイズの体が宙へと引き上げられる。 「ちょっと! タバサ!」 「……乗って」 一時とはいえ彼と共に過ごしたタバサには彼女の気持ちが理解できた。 しかしルイズを連れて行く理由はそれだけではない。 幾度も死線を潜り抜けた彼女の脳裏には最悪の事態が想定されていた。 ルイズの制御から解放された彼の暴走。 それは考えたくないもない想像でありながら限りなく現実味を帯びていた。 もし、そうなっていれば自分達の説得など無意味に終わる。 その時こそルイズの力が必要となるのだ。 「痛ぅ…!」 ルイズの手を取ってシルフィードの背に引き寄せようとした瞬間、 彼女が苦悶の表情を浮かべた。 心配するタバサを手で制し、ルイズは気分を落ち着かせる。 胸の傷が痛んだんじゃない。 私には判る、これは自分の痛みじゃない。 見えない絆にも似た繋がりの向こうから伝わってくる、この痛みは…。 「急いで!」 ぎゅっと胸元を握り締める仕草を見せながらルイズは叫んだ。 彼女の尋常ではない様子にタバサも不安を抱いた。 それは彼の戦友でもあるシルフィードも同様だった。 疲弊しきった筈の身体で尚も力強い羽ばたきを見せる。 飛び去っていくその姿を見送りながら彼は手綱を握り締めた。 追い掛けようとした自分を強く自制する。 別れが惜しいと思ったのは、これが初めての体験だった。 後数年もすれば彼女達はきっと“いい女”になるだろう。 彼の目蓋に浮かぶのは幼き日に憧れた女性の姿。 トリステイン魔法衛士隊マンティコア隊隊長。 アルビオンの王都を行進する彼女の姿を一目見た瞬間から心奪われた。 それは絵本の中から飛び出したような英雄に恋焦がれた。 その日から彼はその背中を追い続け、直属の竜騎士隊まで任されるようになった。 色褪せていた光景が彩を取り戻していく。 その記憶を呼び起こしたのは他ならぬ彼女達だ。 あの日、群衆に紛れて横から見る事しか出来なかった自分が今度は肩を並べて戦えるかもしれない。 その歓喜が、衝動が、どれほど彼を突き動かそうとしたか。 だけど一緒に行く事は出来ない。 忠誠を誓った国は滅び、剣を預けた先王は死に、共に戦場を駆けた若き王も散った。 自分の進むべき道はここで途絶えたのだ。 なればこそ未来に望みを託そう。 アルビオンの遺志を継ぐ者達に、トリステインの少女達に、そしてこの世界に。 騎竜が静かに唸り声を上げる。 敵を察知した事を表す警戒の声。 相棒に静かに頷き、腰に差した杖を抜き高々と掲げる。 厳粛な空気の中、男は高らかに命を下した。 「全騎突撃、こちらから討って出るぞ! この船に決して近づけるな!」 次々と上がる鬨の声。 圧倒的な戦力差を前に怯む者は誰もいなかった。 負けると判った戦に開き直ったのではない。 『マリー・ガラント』号には彼等にとって掛け替えの無い者達が乗っている。 それは親であったり、恋人でありり、友であったのかもしれない。 だからこそ自分達の手で守り切ろうとする、強い意思がそこにはあった。 『マリー・ガラント』号が空を往く限り、これは負け戦などではない…! 「おい! しっかりしろ! 意識を強く持て!」 肩を貸した相手を引き摺りながら貴族派の兵士が叫ぶ。 その言葉に反応は無く、俯いた顔色は青白いまま。 彼の目の前で止血した包帯が赤黒く染まっていく。 無理もない。男の腕は獣を突いた槍ごと肉も骨も砕かれていたのだ。 それをこんな布如きで出血を止められる筈もない。 戦場での常識は助かる人間から助ける事だ。 重傷者一人を助けるよりは軽傷者三人を助けた方が効率がいい。 しかし兵士は男を助けようと必死に運び出す。 そいつは彼の友人でもなければ知り合いでもないし、ましてや上官でもない。 彼は戦場での常識に従ったに過ぎない。 一面に広がる地獄の中で、まだしも彼が一番助かる可能性があったからだ。 足元を埋め尽くす屍が彼等の進路を妨げる。 原形さえも失ったそれを死体と呼ぶ事さえ間違っているのかもしれない。 “これはもう…戦争ですらない” 心の中で呟きながら兵士は中庭まで怪我人を運び込む。 そこには同様の惨状を晒す重傷者達が並べられていた。 呻き声さえ上げず、ただ荒い呼吸を漏らすばかりの半死人達。 たとえ、ここに野戦病院があろうとも結果は同じだろう。 担いで連れて来た男の傍に衛生兵が駆け寄る。 そして一頻り確認した後、その衛生兵は静かに首を振った。 『助からない』と彼は無言で判定を下した。 他の怪我人を収容するスペースを作る為に男が余所に運び出されていく。 僅かに取り留めた意識の中で本人がそれをどのように感じたか、 考えるだけで彼は居た堪れない気持ちで押し潰されそうになった。 刹那。夜の静寂に獣の彷徨が響き渡った。 死の淵にいる怪我人も、忙しなく動き回る衛生兵も、怪我人を運んでくる兵士達も その声を聞いた全員が心臓を鷲掴みにされたように動けなくなった。 彼等を束縛したのは脳裏に焼き付いた恐怖。 槍で貫こうと銃で撃とうとも風で切り刻もうとも襲い来る怪物。 咆哮が止み、しばらく経って獣が現れない事を知って彼等は治療を再開した。 「化け物め…! これだけ殺してまだ殺し足りないってのか…!」 獣の声が響く度に中断される治療。 その所為でどれだけの助かる命が失われたのか。 男はこの場にいない怪物に毒づいた。 城壁に上ったバオーが咆える。 だが決して雄叫びではない。 それは胸の内にある悲しみを吐き出し続ける慟哭。 彼は戦いの中で“バオー”の本質を理解した。 破壊衝動に身を委ね自ら怪物へと成り果てる、そう確信していた。 しかし違った。“バオー”は怪物などではなかった。 “バオー”は何も知らぬ赤子のような存在だった。 ただ自分の身を守る事しか知らずに力を振るう“バオー”に悪意は無い。 どれほど力があろうとも戦いなど求めていないのだ。 自分と同じ様に必死に生きているだけに過ぎない。 向かってくる敵意が薄れた今、彼の意識は限りなく鮮明な物になっていく。 その度に“バオー”の力を戦争に使った事を彼は嘆き叫ぶ。 何の罪も無い命を自分が化け物へと変えてしまった後悔。 幾重に罰を受けようとも決して許される事ではない。 なのに…。 それなのに…。 彼女は許すと言ってくれた。 例え自分を許せなくとも彼女が許すと言ってくれた。 身を引き裂かれそうな想いをその温かな胸で受け止めてくれた。 離れているのに前脚に刻まれた証から彼女の心が伝わってくる。 引かれ合うように空を見上げる。 重なり合う二つの月の境に浮かぶ一つの影。 その背から桃色の髪を風に靡かせた少女がこちらを窺っている。 姿が見えなくともお互いの事が認識できる。 それはルーンの力なのか、それとも彼女の血に交じった分泌液の力か、 理由は不明だが確かに二人の心は見えない何かで繋がっていた。 シルフィードが彼の目前へと近付き、タバサがレビテーションで彼を背へと持ち運ぶ。 目の前へと舞い降りる、余す所なく返り血で薄汚れた彼の身体。 それを何の躊躇もなくルイズは抱きしめた。 そして、寄り添うようにしてただ黙って二人で泣いた。 悲しくて、辛くて、悔しくて、泣く事しか出来なかった。 二人の邪魔をしないようにキュルケとタバサは押し黙る。 キュルケは自分ならルイズを慰める事が出来ると思っていた。 でもそれは違う。彼女に必要なのは一緒に泣いてくれる相手だった。 自分の思い違いに苦笑いを浮かべながらタバサの方へと視線を向ける。 しかし彼の無事に安堵した筈のタバサの表情は浮かない物だった。 タバサの視線の先には城門前に散らばる無数の敵兵の屍。 理由があろうとも彼は自分の意思で人間を手に掛けた。 それも一人や二人ではない、その総数は百を下らないだろう。 もし彼が人類の脅威となったなら、その時は……。 (きゅいきゅい! 誰かが近付いてくるのね!) 思い詰める彼女の耳にシルフィードの鳴き声が届く。 咄嗟にタバサは彼女に退却を指示する。 如何に疲労が溜まっているとはいえ風を切って飛ぶ風竜の速度ならば逃げ切れる。 しかしその距離は離れるどころか簡単に追いつかれた。 追跡しているのが火竜ではなく風竜だと気付いた瞬間、彼女達の背後から声が掛けられた。 「ルイズ!!」 必死に手を伸ばしながらワルドは叫ぶ。 それは断崖に落ち掛けた人間へと伸ばされる手に等しい。 この機を逃せばルイズは無事ではいられない。 ワルドにとっては彼女を救う最後の機会だった。 「僕と一緒に来るんだ! このままでは君は…」 その続きは視界を覆う炎の塊に遮られた。 それを旋風の守りで背後に逸らしながらもワルドは前を見据える。 ワルドの視線からルイズを遮るようにして、 眼の奥に激情をともしたキュルケが再び杖を振りかざす。 「遺言はそこまで? 色男さん!」 「貴様ッ…! そこをどけ! 僕はルイズに話があるんだ!」 「あの子を傷付けておいて…よくもそんな事が!」 残り滓のような精神力を振り絞り、彼女の杖が再び火球を放つ。 それを肩の傷から響く痛みに耐えながら風竜を駆って寸前で避ける。 その攻防からタバサはワルドに余力が残されていない事を確信した。 精神力が残されているなら先程の様にすればいい。 余分な回避行動を取れば相手に距離を開かせる事になる。 そうしなければならなかった理由は唯一つ、ワルドにその力が残されていないから。 だがキュルケもタバサもルイズも限界が近付いている。 そして…出来る事なら彼に力を使わせたくはない。 それでも延々と追いかけっこを続ける訳にはいかない。 「このままでは君もその使い魔も助からない! 今ならまだ間に合う! 『レコンキスタ』に来るんだ!」 「そして、また薬を飲ませて狂わせようって言うの!?」 その、たった一言。 自分の親友が言った言葉がタバサの胸を深々と抉った。 それは彼女が知る由もない自分の忌まわしい因縁。 まるで古傷が疼くかのような痛みに彼女は蹲った。 タバサは気付いてしまった。 母親の心を壊され、彼等に従うしかなかった自分。 彼女が置かれようとした状況が自分達と酷似している事に。 「ルイズを人質にして使い魔も手駒にしようって言うの!? どうなのよ! 反論があるなら答えなさい!!」 「貴様如きに語る必要は無いッ!」 ワルドの怒号と共に風竜がその速度を増す。 一瞬にして真横に付けたワルドがルイズへと腕を伸ばした。 瞬間。その手を掠めて風の刃が飛ぶ。 不意に風竜を離脱させ、攻撃の来た方向へと視線を向ける。 そこにいたのは杖を掲げるタバサだった。 有り得ないと、目に映る光景をワルドは否定した。 彼女は既に竜騎士隊との戦いで精神力を使い果たした筈だった。 しかし現実に彼女はエア・カッターを放って見せた。 「……彼女は渡さない」 杖を握るタバサの手にはまだ柔らかな感触が残っている。 魔法薬で心の平静を奪われた時、ルイズに握り締められた両の手。 あの時に告げられた言葉がどれほど私の心を救ってくれたか。 キュルケと同じ……私の大切な親友。 その親友を傷付け、今度は心さえも奪おうというのか。 彼に、私と同じ苦痛を植え付けようというのか。 「貴方達には…二度と渡さない」 許さない。 決して許さない。 今度こそ私が守ってみせる。 あの頃の無力な少女、シャルロットはもういない。 私はタバサ、トリステイン魔法学院二年生『雪風』のタバサ。 沸き上がる怒りを精神力に変えてタバサは立つ。 彼女の眼に映るワルドは憎き仇の姿をしていた。 あるいは彼女は察知していたのかも知れない。 この背後で陰謀を巡らせる“あの男”の存在を…! 「チィ……!」 ワルドは己の慢心を呪った。 魔法学院の生徒風情に後れを取る事はない。 心の奥で彼女達を完全に見下していた、その結果がこれだ。 二人の少女が放つ気配は自分の執念に迫るものがある。 敗れる事は無いにしても最悪、相討ちさえも覚悟せねばなるまい。 だが、それでは無意味なのだ。 「ルイズ……!」 再びワルドは声を上げた。 自分の声は届く、必ず届くと信じて彼は叫ぶ。 それに応えるように二人の間から細い腕が伸ばされた。 突然のルイズの行動をタバサ達が唖然と見つめる。 「おお…!」 ワルドが歓喜に沸いたのも一瞬。 ルイズと眼を合わせた瞬間、彼はその手の意味を理解した。 自分を哀れむような悲しげな瞳。 彼女は自分に“手を差し伸べた”のだ。 誘いを受けたのではなく、こっちに来るように告げている。 ルイズが理想とするワルド、ワルドが理想とするルイズ。 互いの理想像を求めて手を差し伸べあう二人。 両者の溝は断崖のように深く、決して交わる事は無い。 それをワルドはこの時、初めて理解した。 見る間に風竜の速度が落ちていく。 あれほど近くにあった彼女の背中が果てしなく遠ざかる。 彼自身がもう引き返せない事を自覚していた。 幾重にも重ねた罪は処刑でさえも生温い。 もはや懐かしきトリステインの地を踏み締めるには、かの国を滅ぼす他ない。 そして虚無の力を手に入れるにはそれしか残されていない。 気が付けば手に入れるべきはルイズから虚無の力へと変わっていた。 肩の痛みが失われ、身体を駆け巡る血液も熱を失い、心臓の脈動さえも聞こえない。 まるで自分が死んだかのような錯覚にワルドは陥っていた。 否。錯覚ではない、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドは今日死んだ。 ここにいるのは、その亡骸を突き動かす妄念の塊に過ぎない。 この身の飢えと渇きを癒す為に世界を焼き尽くす“怪物”と彼は成ったのだ。 ルイズの手が宙に揺れる。 その手を掴むべき相手は遥か後方。 行き場を失った腕をそのまま漂わせながらルイズは自問する。 “一体私は何をやりたかったのか?”と。 あのままワルドが戻ってきてくれたとしても彼に待っているのは処刑だ。 せめて最期は貴族らしく誇りある姿で逝って欲しかったのか。 理由は判らない…判らないけれどワルドの目はとても寂しく感じられた。 まるで迷子が道往く誰かに助けを求めるような、そんな眼差しだった。 だからこそ手を伸ばしたのかもしれない。 しかし拒絶された今、残されているのは戦いの道しかない。 それもトリステインとアルビオンの国家間の大戦争。 どれほど多くの血が流されるのか想像さえも付かない。 そして、それを止める事は誰にも出来はしない。 運命という奔流の前では彼女達の存在は流されていく小枝のように無力。 その渦の中心にあるのは、私が持つという“虚無”の力。 “偉大なる我等の始祖ブリミル…” ルイズは始祖に祈った。 毎晩のように捧げられた祈りは叶った。 だけど、こんな事を彼女は望んでなどいなかった。 “もう二度と魔法が使えなくて構いません。 ゼロと呼ばれ蔑まれようとも他人を恨んだりはしません” それは分不相応な願いを持ったが故の罰か。 彼女は心の底から始祖に祈り願う。 “ですから私達に昨日までの日々を返してください。 ただ普通に暮らしていた日常へと私達を戻してください” キュルケがいつもみたいに私の事を小馬鹿にして、 それを少し離れた所から本を読みながらタバサが見ていて、 首を突っ込んだギーシュが巻き添えを食って、 慌てて止めに入るコルベール先生が、可笑しそうに笑うシエスタがいて、 そして私の傍にアイツがいる、そんな退屈なのに楽しく笑い合える日常を、どうか。 失って初めて私は知った。 そんな事に気付けないほど私は幼稚だった。 あの日々こそが“虚無の魔法”にさえ勝る掛け替えの無い財産。 もう取り戻す事も出来ない、本当の“宝”だったのに。 零れ落ちた涙が風に融けて消えていく。 それは過ぎ去りし日を惜しむ惜別の涙だった。
https://w.atwiki.jp/nukorappu/pages/12.html
結局、金子貞花はこの話に一切関わりがなかった。 大畑兄弟にアカウントを乗っ取られ、成りすまされ濡れ衣を着せられた模様。
https://w.atwiki.jp/demoplacard_fuku/pages/53.html
携帯用ページ http //www64.atwiki.jp/demoplacard_fuku/m/pages/53.html スマホ用ページ http //www64.atwiki.jp/demoplacard_fuku/sp/pages/53.html PC用ページ http //www64.atwiki.jp/demoplacard_fuku/pages/53.html ※画像はクリックで別ウインドウ原寸表示 カクサン部!「再稼動、許すまじ!原発ゼロで行かんかい!」 (原寸)640×396,94.7KB (配布元)ttp //www.jcp.or.jp/kakusan2/2014/img/top/main04.jpg 「原発ゼロの日本へ 再稼動を許すな!」 (原寸)800×1131,125KB (配布元)ttp //pbs.twimg.com/media/B3MHNPzCUAAaNDc.jpg large 反原連「原発ゼロを撤回するな」 (原寸)852×590,54.2KB (配布元)ttp //pbs.twimg.com/media/B2fUJJBCQAAywXa.jpg large TNN「お魚守れ」 (原寸)1064×706,254KB (配布元)ttp //2.bp.blogspot.com/-nE-IAJJ8xZ8/UoqifKPU-SI/AAAAAAAAAHQ/oJXGn3L45Wc/s1600/tairyo2.jpg 「ただいま原発ゼロ」 (原寸)600×300,33.7KB (配布元)ttp //pbs.twimg.com/media/Bu1abiuCYAAoq37.jpg 「ただいま原発ゼロ。」 (原寸)600×300,35.8KB (配布元)ttp //pbs.twimg.com/media/BtrfqbxCIAAZtwR.jpg large 「原発ゼロでも江戸時代には戻りませんでした。」 (原寸)600×300,43.6KB (配布元)ttp //pbs.twimg.com/media/Bj8La68CAAE032L.jpg 小泉純一郎 (原寸)903×639,183KB (配布元)ttp //html1-f.scribdassets.com/4ev65degw031x92r/images/1-38c62827df.jpg
https://w.atwiki.jp/goyo/pages/494.html
エア御用な人々 リスクコミュニケーション 斎藤環 武田徹 科学者と原発 327 名前:地震雷火事名無し(千葉県)[] 投稿日:2011/08/23(火) 22 43 40.19 ID H6p+sFON0 シュピーゲル誌の記者は日本人と違ってかなり手厳しいな。 でも、シュピーゲルってドイツの空港のキオスクでは目立つところにあるよね、読んだことないけど。 山下は当然シュピーゲルの意味を知っていると思うけど、そこに自らの姿を見ることはできないだろう。 ドイツでもテレビで日本のアニメを放送しているし、Mangaというコーナーに日本の漫画が平積みにされていた。 街でぶつかった青年には日本語で「ごめんなさい」といわれて驚いたこともある。そんな日本のイメージを壊されたくない。 でも英語版だから、全世界に発信されるということか。 もうひとつ疑問に思うことがある。リスク論に無知すぎるのは自覚しているが、日本人のゼロリスク批判の目的がよく分からない。 リスクは確率的に存在するのだから、用心しろ、あるいは覚悟をしておけというのなら理解できる。 しかし、実際に被害にあった場合にその状況を甘受しろ、加害責任を追及するのは正しくないといわれているように聞こえる。 この理解でいいのか、詳しい人にお聞きしたい。 ▼ 335 名前:地震雷火事名無し(関西地方)[sage] 投稿日:2011/08/23(火) 23 02 36.54 ID mbh27IKr0 327 ゼロリスク批判は、絶対安全なんてありえないのに反対派のお前らが変なもん 要求するからそう言うしかなくなった、ベントつけられなくなった、… などなど反対派や周辺住民、理科の出来ないお馬鹿な市民のせいに責任 転化する発言と理解している。 ただ、絶対安全を要求したのは推進の人たちだし、今でも調べもせずに 安全を言っている。リスクは確率的に存在するし、予想外の形で 事故が起きる時もあるから、様々な対策をするのが前提のはずなのに それらを怠ってきた結果が今 ▼ 341 名前:地震雷火事名無し(catv?)[] 投稿日:2011/08/24(水) 00 15 56.80 ID 3XURsZ2M0 335 ゼロリスク神話が専門家達の中にあるんだよ。 「一般人達はリスクが程度問題だとわかっていないからゼロリスクを要求するのだ」という神話を専門家が信じ込んでいる。 しかし一般人の多くが問題視しているのはリスクの定量的推定のベースにある仮説に未知の不備が存在する可能性によるリスク、 つまり可謬性によるリスクや不確実性のリスクであって、またその種のリスクに対する責任体制が不明確なことだ。 わかりやすい記事があるので引用する。 しかしPABEの調査結果では、人々はゼロリスクなど要求していないのだという。 いいかえれば政策立案者や専門家の方が、「一般市民はゼロリスクを求めている」という「ゼロリスク神話」に囚われているというわけだ。 まず第一に、フォーカスグループの参加者たちは、「自分たちの人生がリスクに満ちており、リスク同士、あるいはリスクと便益とのあいだで 釣り合いをとらねばならないということを完全に分かっていた」し、さらにいえば何事にも「不確実性」があるということ―たとえば科学的な リスクの評価結果にも不確実性はあるということ―も彼らにとっては至極当り前のことだったのだという。 そんな彼らが求めていたのは、 ゼロリスクではなくて、行政や専門家が、「リスクは無い」と言い切ったり、その基盤にある科学的判断の不確実性をちゃんと認めようと しない傲慢な態度を改め、意思決定のなかでもっと真剣に不確実性を考慮することだったのである。 このようなすれ違いは筆者もあちこちで見聞きしているが、一つとても印象に残っているのは、数年前に、東海大地震の震源域の真っ只中に ある原子力発電所をかかえ、いわゆる「原発震災」を懸念している静岡県の浜岡の住民グループと、当時の科技庁の原子力安全委員(?)との 討論会の一場面だ。 さっきも書いたように、95年のもんじゅ事故以来、原子力業界も「原子力にもリスクはある」ということを公言するように なってきているわけだが、この討論会でもそうだった。 科技庁の専門家曰く、「皆さん、どんなものにもリスクはあるんです。それを認めないことには対話は成り立ちません。 」 傍聴していた筆者は、「何、今更、寝ぼけたこというとんねん? それこそ運動側がずーっと言ってきたことやないかい」と内心ツッコンでいたら、 案の定住民グループから「それこそわれわれが言い続けてきたことであり、『絶対安全だ』と言いつづけてきたのはあんたらじゃないか」 というツッコミ。 ものの見事にその専門家は「ボケ役」をやってくれたわけだ。 ttp //stsnj.org/nj/essay2002/hirakawa01.html ttp //hideyukihirakawa.com/GMO/pabe10myths.html ▼ 475 名前:地震雷火事名無し(神奈川県)[sage] 投稿日:2011/08/25(木) 13 19 20.32 ID +Rbu2eZv0 335 ゼロリスク信仰批判は、御用学者、エア御用、反原発派の中の要注意人物(武田徹など)が 同じような方向で動いている。 自称リアリストがこの手の主張に騙されやすい。 現実には、政府や専門家が「一般市民はゼロリスクを望んでいるに違いない!」 と信じている現象のことを「ゼロリスク信仰」と呼ぶべきでしょう。 リスクをめぐる専門家たちの"神話" http //hideyukihirakawa.com/news_remarks/#021015 GMOに対する一般市民の認知に関する10の神話 http //hideyukihirakawa.com/GMO/pabe10myths.html ▼ 345 名前:地震雷火事名無し(中部地方)[] 投稿日:2011/08/24(水) 00 38 39.42 ID QHPT5ID60 327 少しでもリスクがあるならゼロリスクはないんだから それに注意するようにというのが普通だよ。 リスク論語って科学通気取ってる連中や学者がおかしのだよ。 ▼ 387 名前:地震雷火事名無し(茨城県)[sage] 投稿日:2011/08/24(水) 16 48 34.54 ID YCbwhP5p0 327 そもそも英語圏で「受身のDanger」を使うべき状況で「自ら選ぶ危険であるRisk」を多用して 危険を選択しなければならない問題であるかのごとく偽装している。 その意味では日本でのリスク=危険は誤訳と言われるが、実は適訳だと思う。 非常用電源の一部が故障だって 米原発 地震で外部電源喪失 http //www3.nhk.or.jp/news/html/20110824/t10015116481000.html バージニア州の原子力発電所で外部電源が失われ、非常事態を示す4段階の水準のうち、 下から2番目に当たる「警戒」が宣言されました。 ▼ 439 名前:地震雷火事名無し(京都府)[sage] 投稿日:2011/08/25(木) 03 35 35.85 ID VdhQCbA80 387 327 そもそも英語圏で「受身のDanger」を使うべき状況で「自ら選ぶ危険であるRisk」を多用して 危険を選択しなければならない問題であるかのごとく偽装している。 科学バカなニセ科学批判連中も、ふつうに工学系のリスク論やってる研究者も、 その区別自体を意識してないよ。完全に。 「科学的」には地震という自然現象が起きる確率も「リスク」といわれてしまう。 さらにいえば、「受け身かどうかなんて主観的なこと。非科学的」とすら思ってる奴らも多い。 ▼ 460 名前:地震雷火事名無し(茨城県)[sage] 投稿日:2011/08/25(木) 10 19 42.33 ID CguCPjNu0 439 欧米の学者は意図的に歪めてるけど日本の学者はそれを素直に受け入れちゃってるようだね。 日本でも社会学・経済学系ならリスクの原義の説明はするんだけど、欺瞞性の指摘はない。 イギリスでの「市民のゼロリスク信仰」言説が「日本人のゼロリスク信仰」言説にすりかわってるのも面白い。 475 名前:地震雷火事名無し(神奈川県)[sage] 投稿日:2011/08/25(木) 13 19 20.32 ID +Rbu2eZv0 335 ゼロリスク信仰批判は、御用学者、エア御用、反原発派の中の要注意人物(武田徹など)が 同じような方向で動いている。 自称リアリストがこの手の主張に騙されやすい。 現実には、政府や専門家が「一般市民はゼロリスクを望んでいるに違いない!」 と信じている現象のことを「ゼロリスク信仰」と呼ぶべきでしょう。 リスクをめぐる専門家たちの"神話" http //hideyukihirakawa.com/news_remarks/#021015 GMOに対する一般市民の認知に関する10の神話 http //hideyukihirakawa.com/GMO/pabe10myths.html gnsi_ismr gnsi_ismr 「脱ゼロリスク」を承服しがたいのは、それが責任の免除と連動するから。 そもそも責任の追及はいかにあるべきか。100%の原状回復が合理的でないことは私的紛争を例に取れば明らか。 ポイントは立場を入れ替えたときの納得性。互いに加害主体となりうる状況で合理的な責任追及はいかにあるべきか。 12月31日 この場合大前提として、「立場の入れ替えが可能である」という条件が成立しなければならない。 立場の入れ替え可能性がゼロである状況で脱ゼロリスクを「啓蒙」することは不可能ではないか。 12月31日 今のリスク比較論議は、セクハラをしておいて「減るもんじゃないし」と説教するようなものだよなあ。 本来、肩がぶつかって「たいしたことないしお互い様だから」と許し合うような状況じゃないといけないのだと思う。 @kikumaco リスク比較の話にはいくつかの違う階層、違う問題がある ow.ly/8f2it この点については全く異論はありませんし、混同するつもりはありません。 GoyoGakusha 御用聞き @gnsi_ismr このリスク比較論議は、放射能の健康被害のことでしょうか? だとした場合、肩がぶつかって許し合うというのが、実際の状況に どうたとえられているのかイメージできません。 よろしかったら具体的な状況を教えてください。 @GoyoGakusha 「リスク比較論議」は今回の放射能の健康被害のことを指していますが、 「肩がぶつかって許し合う」状況は本件においては原則的にありえません。本来あり得な い状況に適用されるべき議論を適用しているということを言いたかったのです。 「肩がぶつかって許し合う」というのは、そこそこ許容可能な程度のリスクで、自分もリ スクを与える側になり得るという入れ替え可能性がある場合“に限っては”、それ以上のリ スク低減を求めないという社会的合意が得られる素地があるだろうという意味です。 RT @GoyoGakusha @chireng Dodol Garut すみません。横から。ゼロリスクって何のリスクの事ですか?今回の事故による 追加リスク?それとも放射能全般のリスク? @chireng 今回の事故による追加リスクですね。自然放射線や医療被曝によるリスクは 常に既に存在しますから。 政治家や東電の幹部がこれ以上頭を下げても放射線量が減るわけではないことは当然誰も が承知していると思う。しかし、どうもその周辺に(何、とはうまく言えないが)何か省 略されてしまっている手続きがあるように感じるのですよ。 100の言葉や“誠意”の表現より現実の除染と合理的なリスク比較、というのも正しいかも しれないが、「それだけ」では何か欠けているように思うんですよね。そこがうまく言え ないのですが。 @kikumaco 頭はいくらでも下げるべきですよ。 それで放射能がどうこうなるわけじゃなくても 下げるべきだと思います。ただ、頭だけ下げられて「反省している空気」を作られて 除染や被曝回避がうやむやになっては困りますが。 @kikumaco いや、言葉はだいじですよ。 だからって、それを根拠にリスク比較をさせようとしない人たちはダメですけど そういう意味では、少なくとも言葉のレベルに限っても、当事者が自発的にリスク比較 をしようという状況をまだ作れていないと思うんですよね。 RT @kikumaco 福島の人たちに聞いてみたらいいですよ。 本当に自発的にリスク比較する状況じゃないのかどうか 「せざるをえない」という意味では、常に既に行っていると思います。 いつでも誰でも、行動は一度に一種類しか選べないですから。 @kikumaco リスク比較はどのみちするけど、それは自発的ではないというのでは、 なにも言ってない 「自発的」という言葉はパターナリスティックだったかもしれませんが、少なくとも 「もっとマシなリスク比較」ができる状況をつくれないのかと思っています。 原発の放射線リスクは、他の人為的リスクと比較して圧倒的に「お互い様」感が無い。 恐らく、民主的な意思決定プロセスの欠如と関係しているのだろう。 もちろん原発周辺市民は現実問題として自由意思でリスク比較をしている。 しかし明らかに周辺市民に許されている「リスク比較の幅」は狭い。それも押しつけら れた狭さであり、それに対する当事者の反省も対応も不十分。そういう意味でリスク比 較において十分な自発性が担保されていないと感じる。 従って、現状の比較条件を固定したままリスク比較しろと言っても納得できないだろう。 その条件自体国や東電の努力でもっと変えられるだろう、と思ってしまうに違いない。そ れをやってないということが(言葉や態度の問題は除いたとしても、行動として)「誠意 がない」ということなのではないだろうか。 だからこそ、自分にできることはささやかなことかもしれないが、せめて「もっとマシな リスク比較」ができる状況をつくりたい。 ただ、自発性という言葉の使い方には注意しなければならない。ある選択をした人は、 問われれば当然自発的に選択したと言うだろう。自分の行動と整合性をとるために。 かといって「あなたの自発性は自発性ではない」と他者が指摘できるか。可能なのは あくまで事実としての選択の幅の欠如に関しての議論。 私はこの一連の稚拙な発言を投稿するかどうか迷った。が、結論として、このような 稚拙な発言を繰り返したいと思う。それが結局、今回『科学』に書いた、私たちに 必要な「科学技術をめぐる「話法」」を練り上げていく一歩一歩だと思うから。 hirakawah 平川秀幸 @gnsi_ismr 実際、避難に伴うリスクは、国や東電の賠償や他の社会的支援次第で 軽減可能なことも多いのに、そうなってないわけで、そういう国・東電の不作為と いう不正義・不誠実によって制限された状態でのリスク比較や選択というのは 不条理ですもんね。 リスク比較の初期値は「変えられる」はずです。 @tacohtk 一連のツイート興味深く読む。一方でリスク比較の問題だということ 自体が認知されていない状況もまだまだある。 もちろん、リスク比較が合理的な資源配分のための有効な方法だと自体は全く否定しま せん。 補足すると、追加リスクを文字通りゼロにせよと言っているわけではありません。 それが現実的でないことは皆理解しているでしょう。「ゼロリスク信仰から脱せよ」 と、誰がいかなる努力を前提として言うか、を問うているのです。 @chireng Dodol Garut このゼロリスク信仰って今迄有りますか?何で今になって脱出しなければならない? 少なくとも選択的に今回の追加リスクのゼロリスクを徹底してもダメ? 自治体や流通業者、あるいは地域共同体が合意の上でそのような方針を採ることは全く 問題無いと思います。 少なくとも手持ちの情報を隠さずオープンにして、今後の除染・避難・福島第一の事故処理・経済復興etcの 意思決定と実施に住民が実効的に参加できる状況を作ることが、謝罪の大前提。 その意味で彼らの謝罪は何一つ完了していない。そこで自発的なリスク比較と言われても。
https://w.atwiki.jp/tekiyakusaikyou/pages/178.html
【覚醒ゼロ】 【作品名】ロックマンXシリーズ 【ジャンル】ゲーム 【名前】覚醒ゼロ 【属性】レプリロイド 【大きさ】160cm 【攻撃力】幻夢零 ビームサーベルから高さ10m、射程数10mほどのスラッシュ状の衝撃波を出す 連射可能で1発1発の威力は通常時の自分に匹敵する 防御力を持つエックスを1撃で倒す事ができる位 【防御力】地上全体を廃墟にする隕石に巻き込まれても無傷(イベント) 【素早さ】ダッシュの速さはレーザーを追い越す時がある 自分と同等のダッシュ力を持つエックスの動きに反応できる 【特殊能力】時止め耐性有り 【長所】安定した強さと耐性 【短所】攻めに使える特殊能力が無い 【備考】防御力の項にある隕石とは正確にはコロニー落としの事 今後の考察の考え、分り易い様に敢えて隕石と表記 6スレ目 142 名前:格無しさん[sage] 投稿日:2007/09/01(土) 00 58 40 覚醒ゼロ ○>ン・ダグバ・ゼバ>女禍:切って勝ち △壬生京一郎:速過ぎてあたんね ×カルパ:位置逆転で自分のスラッシュ食らって負け ○>ジレール>ゾーク・ネクロファデス:近寄って切って勝ち ×ニドヴォルク:肉片にしても無理だしそもそも速いので当たらない。ベヘモー負け ×庵原隷:漆黒で消滅 ×六嶺美登里:3mからの光には間に合わないかな。停止負け この上からは自分より速過ぎる。あともっと攻撃範囲がでかくないと無理。 ニドヴォルク>覚醒ゼロ>ジレール